マーケターが抱えるジレンマ #01

現代のマーケターが抱える「ジレンマの正体」

 

潮目が変わったと感じた出来事


 毎年、参加させてもらっているダイレクトマーケティングのカンファレンス「ダイレクトアジェンダ」は、今回(2020年2月開催)明らかに「これまでの回と異なったな」と感じる点がありました。

 それは、キーノートをはじめとする多くのセッションで、これまであまり語られてこなかった「本質的な価値の重要性」にフォーカスしたセッションが多かったという点です。

 どちらかと言うと、これまでは動画マーケティングやデータ分析など、テクノロジーをいかに使うかといった視点のセッションが多かったのですが、今回はキーノートであるオルビス 小林社長のセッションも含めて、私の担当したセッションでも「本質的な価値」を中心的なテーマとして取り上げており、参加したマーケターの多くもこの価値について話題にしていました。

 参加する多くのトップマーケターが、マーケティングの重要なテーマが「本質的な価値」に移りつつあることを直感的に感じている、その結果なのかもしれません。
 
ダイレクトアジェンダ2020 キーノート。オルビス 代表取締役社長 小林 琢磨氏(左)と、ディノス・セシール CECO 石川 森生氏(右)。
 

「プロダクト三層モデル」を考える


 そもそも製品やサービスの「本質的価値」とは何でしょうか?

 それを理解するために、我われが認識している製品やサービスがどのような「価値の構成」であるのかを紐解く必要があります。

 最もよく利用されるのが、フィリップ・コトラーにより考案された「プロダクト三層モデル」が挙げられます。製品の価値を「中核・実体・付随機能」の三層に分ける考え方で、現在ではメジャーなフレームワークとなっています。



 まず、製品の中核は「消費者がその製品を購入(雇用)することで得たい便益」を表し、別の表現をすれば、クレイトン・M・クリステンセン氏が提唱した「ジョブ理論」におけるジョブということになります。

 ジョブとは「ある特定のシチュエーションで人(顧客)が成し遂げたい進歩(解決したい用事)」を表し、インサイトやニーズとも近い概念です(正確には違います)。なかなか捉え所の難しい概念です。詳しくは私のnoteで解説していますので、そちらをご参照ください(参照:状況ターゲティングの時代に備える 前編 )。

 次に、製品の実体は手に取れて目に見える「製品そのもの」です。具体的には「品質水準・特徴・デザイン・ブランド・パッケージなど」で構成されます。製品の中核である「ジョブ」を実際に解決する「手段」に当たります。

 最後に、製品の付随機能は、簡単に言えば「製品に付随するサービス」のことです。アフターサービス、保証、配達、設置などが該当します。

 

製品やサービスの「本質的価値」とは何か


 プロダクト三層モデルでよく使われる事例として「ドリルの話」があります。ホームセンターでドリルを購入する顧客は、「ドリルが欲しいのではなく、ドリルで開ける穴がほしいのだ」という話です。

 顧客は、板に穴を開けたいという「ジョブ」を解決する「手段」として、ドリルを購入しているにすぎません。これを三層モデルで考えれば「製品の中核=板に穴を開ける」「製品の実態=ドリル」という関係です。あくまでも目的は板に穴を開けることという点が重要であり、その目的(ジョブ)を解決する手段として「予め穴の開いている板」を購入する方が、よりジョブを解決する手段として優れているのであれば、顧客はそちらを選択するでしょう。

 この例からもわかる通り、製品やサービスの実体はジョブを解決する手段であり、言い換えれば、このジョブを解決できることが価値です。そして、これこそが製品やサービスの「本質的価値」であると言えます。

 優れている製品やサービスは、この本質的価値が「他の代替手段よりも相対的に優れている」ということになります。私は、この価値に関わって現代のマーケターがジレンマを抱えていると考えるのです。

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