ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #15

利己から利他へ “87世代”の経営者に聞く行動原理 SHOWROOM 前田裕二

前回の記事:
スイス本社に赴任。ネスレ期待のマーケター 村岡慎太郎の仕事術
ミレニアル世代を代表するビジネスパーソンにアジャイルメディアネットワークの徳力基彦氏がインタビューし、現代のマーケティング担当者が知っておくべき消費者行動や、その捉え方を探ります。

第8回は夢を叶えるライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」の代表取締役社長の前田裕二氏。「SHOWROOM」ではライブ配信をする演者に対して、視聴者が有料アイテムで直接応援する「支援モデル」をとり、当初はうまくいくはずがないという声があった中でビジネスを伸ばしています。なぜ支援モデルが支持されたのかという背景を探りながら、ミレニアル世代ならではの経営視点を探りました。
 

中国のライブ配信サービスを参考に「SHOWROOM」を考案


徳力 前田さんは1987年生まれですよね。この世代はちょうど大学に入った頃にSNSが普及し始めたこともあって、インターネット上のつながりを大事にしている世代(筑波大学准教授の落合陽一氏、READYFOR CEO米良はるか氏など)で、インターネットを仕事で使い始めた私たちの世代とは、異なる視点の話が聞けるのではないかと思っています。

そもそも「SHOWROOM」は共感価値を重視し、ユーザーが演者に直接支援するモデルをとっていますよね。前田さんの著書にはストリートミュージシャンをしていた経験が元になったと書かれていましたが、そうは言ってもスタートした当社は誰もが「直接支援なんて、うまくいくはずがない」と言っていたのではないかと思います。

前田 そうですね。むしろ「見てろよ!」と、モチベーションになるくらいに、たくさん言われました(笑)。
前田裕二
SHOWROOM 代表取締役社長
1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入社。11年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。株式市場において数千億~兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。その後、0→1の価値創出を志向して起業を検討。事業立ち上げについて、就職活動時に縁があったDeNAのファウンダー南場に相談したことをきっかけに、13年5月、DeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年8月に会社分割によりSHOWROOM設立、同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受ける。現在は、SHOWROOM 代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。2017年6月には初の著書『人生の勝算』を出版し23刷9万部超のベストセラー。近著の『メモの魔力』は、発売2日で17万部突破、現在50万部に。

徳力 ですよね。それなのに、なぜうまくいくと思われたんですか。

前田 これは本当に、直感でした。僕はどちらかといえば右脳型で、それまでもまず直感で浮かんだことに左脳で肉付けして、人を巻き込む方法をとってきました。当時、これは絶対にいけると思ったのは、ひとつは自分が弾き語りしていたときの嬉しそうなお客さんの顔を思い出したから。もうひとつは、すでに中国で直接ギフティングをするシステムが盛り上がっていた、ということもありました。

徳力 
ライブ配信は世界的に見ても、中国が先行していますよね。

前田 
そうですね。中国のライブ配信の市場規模は早々に5000~6000億円、MAUでも3億人の規模を超えてきていました。そのインサイトを深掘りすると、演者と支援者に共通して「承認されたい」という思いが見えてきました。

その「承認」という本質に目を向けると、InstagramやFacebook、Twitterの延長線上にライブ配信があるのだと思います。誰でも気軽にステージに立てて「有料のいいね」をもらえる。発信側も満たされるし、課金側もバーチャル世界で承認を得られる世界が広がっているんです。

徳力 
ルネサンスの芸術家とパトロンのような関係ですね。課金行為を通じて、自分も王様気分になれるというイメージです。
徳力基彦
アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー・ブロガー /ピースオブケイク noteプロデューサー
NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、 2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視する アプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より取締役。2019年6月末で退任、7月から現職。同月 ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガーにも就任。

前田 
はい、中国のライブ配信だと特に、プロダクト側もユーザーを王様に見立てた言葉づかいをしています。お金をたくさん使う人が王様、という世界観です。ユーザーである演者も親しみやリスペクトを持って王様を崇め、王様が部屋に入ってくると「王様が来た!」と言って、みんながひれ伏す、というような。

ただ、これは日本では恐らく成立しにくくて、日本でもし同じような人がいたら「あいつは金で何とでもなると思っている」というクレームが殺到することが想像できます。

徳力 
かなりの確率で、そうなりそうですね(笑)。

前田 
ただ、それらの現象もさらに抽象化すれば、日本も中国も「寂しさを埋める」という点では同じだと思いました。中国のユーザーがなぜ「王様になりたい」のかと言えば、中国では一人っ子政策の影響もあり、同世代の女性が周辺にいない独身男性が急激に増えて彼らが寂しさを抱えていた、という社会背景の分析もありました。

ある世代の中国人は、高級ブランドを現実世界の友だちに自慢することで寂しさを埋める、という構造もあったかと思いますが、ソーシャルメディアに接続した現代では、シンプルに言うと、「オンライン上で自慢」するようになったのかもしれません。

面白いことに、ポルシェなどの高級車を現実世界のものではなく、インターネット上のプラットフォームのものを買うんです。値段も500万円くらいするんですが、物理的に乗れるわけでもないのに、平気で購入する。

徳力 
本当ですか。それはインターネット上の部屋に飾るオプションか何かですか。

前田 
はい。ライブ配信をしている部屋に入るときに車が表示されるんですよ。

徳力 
面白いな・・・。ただ、前田さんは、そういった仕組みは今の日本の文化にはハマらないと考えたから、そのまま持ち込みはしなかったんですよね。私のような、いわゆる昭和の世代はお金を持っていることが成功の証だったという面もあって、中国の考え方も何となく分かるんですが、今の若い世代とは何が違うんでしょう。

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