ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #16

SHOWROOM 前田裕二氏が挑戦する「深さの広告」とは何か

前回の記事:
利己から利他へ “87世代”の経営者に聞く行動原理 SHOWROOM 前田裕二
 夢を叶えるライブ配信プラットフォーム「SHOWROOM(ショールーム)」の代表取締役社長の前田裕二氏。「SHOWROOM」ではライブ配信をする演者に対して、視聴者が有料アイテムで直接応援する「支援モデル」をとり、当初はうまくいくはずがないという声があった中でビジネスを伸ばしています。前編に続き、後編では前田氏が考える新しい広告のカタチについて聞きました。
 

「幅」ではなく「深さ」の広告とは


徳力 日本でも一般のファンが交通広告を買って、タレントを支援する「応援広告」が展開されています。韓国ではすでに行われていたようですが、前田さんはその文化を先駆けて日本でつくってきたと言えるのではないかと思っています。

前田 
そうですね。まさにSHOWROOMが電通と資本業務提携したひとつの協業の狙いとして、応援広告の文脈から“深さの広告”をつくろうというものがあります。       
前田裕二
SHOWROOM 代表取締役社長
1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入社。11年からニューヨークに移り、北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事。株式市場において数千億~兆円規模の資金を運用するファンドに対してアドバイザリーを行う。その後、0→1の価値創出を志向して起業を検討。事業立ち上げについて、就職活動時に縁があった株式会社DeNAのファウンダー南場に相談したことをきっかけに、13年5月、DeNAに入社。同年11月に仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年8月に会社分割によりSHOWROOM株式会社設立、同月末にソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受ける。現在は、SHOWROOM株式会社代表取締役社長として、SHOWROOM事業を率いる。2017年6月には初の著書『人生の勝算』を出版し23刷9万部超のベストセラー。近著の『メモの魔力』は、発売2日で17万部突破、現在50万部に。

徳力 深さの広告とはなんでしょう?

前田 
今の広告市場は基本的に幅でその価値を判断していますよね。テレビで言えば視聴率、ネットでいえばPVやUUなどですが、それらはすべて「どれくらいの人が見たのか」という幅の観点であって、「その人の人生にどれだけ深く影響を与えられたのか」という数値ではない。僕自身、テレビ番組に出ていて、視聴率と実際の反響の間で乖離を感じることがあります。

徳力 
なるほど単純な視聴率の量とは違う質の深さがある感じですよね。ただ、一般的には、その深さは心の動きだからデジタル系の効果測定ツールで測るのは難しいし、従来の企業は量の測定に慣れてしまっているため、結局は数が多くなければダメだとなりがちですよね。

前田 
まさに、そうです。

徳力 
その深さの大切さは、どう説明すれば分かってもらえるのでしょう。

前田 
ものさしとなる「尺度」が絶対的に必要だと思います。深さのエンゲージメントを測る指標、深さの物差しのようなものがこれまではなかった。尺度ができ、深さが重要だとみんながいっせいに言い始めたら、広告やクリエイティブのつくり方も変わると思います。だからと言って幅の指標がなくなるわけではありません。コンテンツに愛着を持つ濃いファンをつくりながら、幅も取りたいというニーズは必ずあります。

徳力 
私も一度、深さの指標をつくろうとしたことがあるのですが、うまくいかなかった経験があります。

前田 
指標をつくるためには必要なことが2つあって、ひとつは本当に深さを持っているプラットフォームが旗を振るということ。もうひとつはプラットフォームだけでなく、みんなで旗を振る、ということ。

「SHOWROOM」が深さの指標を使って、こんな成功事例を生みましたと言えば、たぶんほかの深さを持っているメディアも同じことを始めると思うんですよね。それが組み合わさり拡大していけば、だんだんと広告主の価値観や行動も変わっていくのかなと思います。現在の広告市場ではエンゲージメントが重要視されていますが、そのために何をすべきかが分からずに悩んでいる状況はあるかと思います。

徳力 
広告会社にとっても必要ですよね。
徳力基彦
アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー・ブロガー /ピースオブケイク noteプロデューサー
NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、 2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視する アプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より取締役。2019年6月末で退任、7月から現職。同月 ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガーにも就任。

前田 
そうです。広告会社はクライアントの幸せを考え、ひいては生活者の幸せにもコミットしているわけですから。今、流れている広告のすべてが本当に生活者の幸せにつながるのか。深さが測定できるようになれば、そういった発想がもっとクリエイター側に植え込まれるようになり、広告のつくり方自体変わるかもしれません。

徳力 
本来はリーチとエンゲージメントの両軸で考えるべきなんですよね。たとえば、今のダイレクト広告は、どれだけ大量に広告をぶつければ人は動くのかというリーチばかりを考えがちな印象がありますが、そこにエンゲージメントという指標が入れば変わってくるはずです。

前田 
まさに、そうなんですよね。すごく難しいことですが、それをどうしても、やりきりたいんです。

マーケターに役立つ最新情報をお知らせ

メールメールマガジン登録