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連載「世耕さん、広報の魅力って何ですか?」 #01

日大アメフト問題の広報対応、同じ大学としてどう見たのか【近畿大学 世耕石弘氏の視点①】

 5年連続志願者数日本一を誇る近畿大学の仕掛け人、世耕石弘総務部長による連載がスタート。企業に勤めている広報担当者やマーケティング担当者から質問を募集し、世耕氏にアドバイスをもらいます(こちらで募集中)。第1回は、質問「日大アメフト問題で、大学だけでなく広報対応も批判に晒されています。日大広報は、どのような対応をとるべきだったのでしょうか(30代・食品メーカー)」に答えてもらいました。

「炎上は怖い」−大学界のセオリーが初動を遅くした

 ここに来て、少し収束気味の一連の報道であるが、この数年の大学界では未曾有の「炎上案件」であった。事実に関しては、多くの識者が新聞、テレビ、ネットで様々な見解を示しており、いまさら私がどうこう述べる状況ではないが、前職の私鉄(近畿日本鉄道)時代から現在まで約18年間、広報という業務に携わっている視点から、今回の一連の報道について感じたことを述べさせていただく。

 今回の事案で「自分なら、どうするか」報道を見ながら頭の中でシミュレーションを続けている。まず問題のタックルの動画がインターネット上で拡散され、徐々に報道された段階での「初動」だ。

 実は、今までの大学スポーツ界のセオリーからすると、ルール上の問題について、大学側で何らかのアクションを起こすのは困難である。我われ近大でも体育会クラブは40団体以上あり、それぞれの競技ルールを正確に把握すること自体、無理な話である。ルール上の問題は、所属する競技団体が裁定を下し、それを受けて大学側が何らかの処分を下すという対応が、これまでのセオリーであった。

 ただし、今回のケースは、誰もがいつでも閲覧できる動画サイトから一瞬に拡散し、しかも素人が見るだけで背筋の凍る危険なシーン、そのうえ指導者からの指示も疑われた。そうした状況から、今回の報道を見る限り、これまでのセオリーを通すことは無理筋であったことは明白である。「炎上」の度合いを見極め、セオリーから脱して、大学側が積極的にコミットすべきであったのだ。
 
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 さらに、大学側が事態を把握するには、相当な時間がかかることも問題を大きくした。大学は外部からの支配介入を受けない「大学の自治」が法律的概念として存在し、それに基づき様々な手続きを行っていく民主的なプロセスが求められる。

 今回も、もし大学側が事態を重く受け止めて事情聴取に動いたとしても、大学には教職員や学生に対する懲戒規定がある。原則は、事案の発生段階で学内教職員や外部弁護士などで組織された懲戒委員会などを立ち上げ、そこが聴き取り調査などを行って裁定を下し、さらに不服申し立て期間を設けるなどの対応を経て、最終的に処分が決定する。このセオリーも、今回は通用しなかったようである。
 

炎上を沈静化させるための「記者会見」

 もちろん民主的なプロセスは、絶対に経なければならないが、少なくとも大学ブランドへのダメージを軽減するならば、前例に囚われず短期にこれらのプロセスを完結すべきであった。

 それでも一定の時間は要するため、初期の記者会見でそのプロセスを説明し、理解を求めることもできたはずである。記者会見は記者のためのものではなく、その後ろに控える膨大な数の読者や視聴者に事情を訴えかけ、少しは「炎上」を沈静化する、ひとつのチャンスであった。

 スマホで情報が一瞬に拡散され「炎上」する時代。今までの危機管理広報のセオリーが通用しない時代になっている。確かに、過去の体験や事例に基づくセオリーも大切だが、マーケティングがインターネットに対応して変化しているように、危機管理広報も事態が発生すれば、これまでのセオリーを無視して、変化しなければならないことを今回のケースは教えてくれる。

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