日本の広告費

ネットがテレビ超え「日本の広告費2019」をどう読み解いた? 足立光・片山義丈・田岡敬・西谷大蔵・本田哲也・水島剛

 電通は3月11日、「日本の広告費2019」を発表した。国内広告市場は、新領域として「物販系ECプラットフォーム広告費」と「イベント」を追加し、6兆9381億円(前年同様の方法では6兆6514億円で前年比101.9%)。インターネット広告費は、新設項目を加えて2兆1048億円となり、テレビメディア広告費の1兆8612億円を初めて超えた。今回の結果を、マーケティング領域の6人のプロフェッショナルは、どう読み解いたのか。
 

今こそデジタル部の解散・解体を考えるタイミング?

 
足立光氏
(ナイアンティック シニアディレクター プロダクトマーケティング)

 今年の最も大きなトピックは間違いなく、インターネット広告費がテレビ広告費を抜いたことです。ただ、それをインターネットやデジタル全盛時代の到来と捉えるのは間違いです。なぜなら、テレビ広告費だけでなく、屋外や交通などの広告費も、インターネット広告費の伸びの分だけ落ちているわけではないからです。

 この数値が意味しているのは、テレビなどの既存のメディアに「加えて」、インターネットメディアの増加によりお客さまにリーチできる手段が増えているということ。つまりはテレビだけでもインターネット「だけ」ではなく、インターネットやテレビを含む多種のメディアを「バランス」よく包括的に考えて、使わなくては、広いお客さまに効率的にリーチできなくなっているということです。

 これはマーケティングの部署を既存のメディアとデジタルで分けることに意味がなく、そのどちらかしかわからないマーケターにも価値がないということを意味しています。インターネット広告費がテレビ広告費を抜いたというニュースは、これまでの「デジタル部」を解散・解体して、全ての事業や部門が既存メディアとインターネットを包括的に考えるように改編するという動きを考えるきっかけになるのではないでしょうか?
 

目的から最適な媒体の組み合わせを考えるべき

 
片山 義丈氏
(ダイキン工業 総務部 広告宣伝グループ長 部長)

 着目すべきは、媒体別の順位変動ではありません。広告コミュニケーションにおいては、広告目的によって最適な媒体の組み合わせは異なり、その目的に合わせて最適な組み合せができるかどうかが「広告目的達成の成否のポイント」となります。 

 インターネット広告と一言で言っても千差万別で常に変化しています。インターネット広告が伸びたことは、アドベリフィケーションなどの広告品質の課題にきちんと対応する必要性がますます増したことを意味します。それだけでなく、多種多様なインターネット広告の手法の中から、自らの広告目的に最適なものを選択、そしてマス媒体などと最適に組み合せることで、従来にはない広告効果を得るチャンスも増えたとも言えるでしょう。
 

「集計の仕方」を見直すタイミングに来ている

 
田岡敬氏 
(エトヴォス 取締役 COO)

 デジタル配信の交通広告は集計上「交通広告」に入っていますが、テレビ局のデジタルメディアは「インターネット広告」に入っています。「日本の広告費」自体が集計の仕方を見直さないと、意味をなさなくなっているのかもしれません。

 「交通広告=移動中」というオケージョン(機会)で集計されるものと、テレビやスマートフォンといったデバイス別に集計されるものに分けて、そのうちのデジタル配信比率を調べるという方が意味を見出せそうです。昨今、タクシー広告が人気であることを考えると、交通広告の内訳に「タクシー広告」が出てくるかもしれません。
 
 

デジタル広告を「どう活用するか」というフェーズへ

 
西谷大蔵氏 
(住友商事 メディアエンターテイメント事業部 ALPHABOAT 社長 )
 
 テレビ広告費をインターネット広告(本稿ではデジタル広告と表記)費が抜くのは、従前より手堅く予測されていたことで意外性はありません。それよりも広告費総額に占めるデジタル広告費の割合が30%を超えました。これは米国(デジタル比率=50%超え)ほどではないものの、いよいよ企業規模の大小東西を問わず、デジタル広告を「どう活用するか」というフェーズに入ってきたことを意味していると認識しています。

 一方で「マーケティング活動そのものがITデジタル化」しています。住友商事もご多聞にもれず、あらゆる事業ドメインにおいてデジタル・トランスフォーメーション(DX)を図っています。いまやブランディング、顧客獲得や送客、分析から効果測定や需要予測まで、データを基軸にしてあらゆる企業のコミュニケーション活動にデジタル広告が絡みながら進行しています。今後は、企業自体のDX化の中でデジタル広告そのものの定義や線引き自体もポジティブな意味で、さらに曖昧になっていくだろうとも感じています。

 そうは言っても、プリミティブな広告コミュニケーションの領域では、認知獲得(リーチ系、広く告げる目的)ではテレビの優位性が広く認識されています。しかし、テレビがどう、デジタルがどうという議論の上段に「企業活動そのものがデジタル化し、デジタル広告自体の意味するところや役割の幅が広がってきた。その結果として、6年連続2桁成長の30%越えまでデジタル広告が伸長してきた」という事実があると思います。いずれにせよ、今後さらにデジタル広告が伸びるのは明々白々で、コミュニケーションの打ち手の選択肢は事業運営そのものとの高度な連携を抜きにして語れなくなると思っています。
 

「デジタルかリアルか?」といった議論が終息

 
本田哲也氏 
(本田事務所 代表取締役社長)

 インターネット広告が2兆円を超え、地上波テレビを凌駕しました。何年も前から予測されていたことがいよいよ現実になったのを潮目に、「デジタルかリアルか?」といった議論も終息します。

 マーケティングの観点からは、媒体別スペンディング対比そのものよりも、それぞれの媒体で「どういった情報が発信されているか?それぞれの役割は何か?」のほうが重要です。インターネット広告に投資したという事実と、それで消費者が動いたという事実は必ずしも合致しません。媒体配分の中で、広告的なメッセージとPR的(エディトリアル)なメッセージのバランスがどうなっているのかにむしろ関心があります。
 

マスとデジタルの対立構造で捉える時代が終焉

 
水島剛氏 
(Indeed Japan マーケティングディレクター)

 あらゆるものがデジタルトランスフォーメーションする中、メディアをマスとデジタルの対立構造で捉える時代が終焉を迎えました。そして、メディアとコンテンツの際(きわ)は曖昧になり、まとめてソリューションと呼ぶ方がしっくりきます。それらを提供するメディア会社やパブリッシャー、プラットフォーマーの立ち位置も多様化し、混沌とした世界が訪れるでしょう。

 そういった中、メディアに精通する人が「売り方」ではなく「使われ方」にフォーカスし、クライアントの課題に寄り添うことで、カオスからイノベーティブなソリューションが生まれます。そして、これからの「日本の広告費」は、メディアやコンテンツ、事業や生活者が“共進化”していく過程をウォッチしていくことになるはずです。楽しみです。
 

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