ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #18

「ECの専門家」という肩書を、なぜ手放したのか。ディノス・セシール CECO 石川森生氏

前回の記事:
腕利きマーケター、ディノス・セシール 石川森生氏が語る「キャリアのターニングポイント」
 デジタル領域を出自としながら、DMなどリアルな手法をデジタルと組み合わせ、昨年は全日本DM大賞のグランプリを受賞するなど成果を出しているディノス・セシール CECO 石川森生氏。前編に続き、EC業界から、あえてカタログを強みにする通販会社に飛び込んだ背景に迫りました。
 

「意味のないEC」を「意味のあるもの」に変える挑戦


徳力 
(前編は、こちら)失礼な言い方かもしれませんが、石川さんが経営者まで経験された後、ディノス・セシールに加わったことを不思議に思う人は少なくないんじゃないかと思います。

当時のディノス・セシールは、まだそこまでデジタル化が進んでいなかったでしょうし、私からすると、せっかくECでの経験を積んだのに、すごく大変なところに踏み込んだように見えたんですよね。

石川 
当社の通販ブランドである「ディノス」も「セシール」も1990年代からECサイトを運営していたので、インターネットの歴史は長いのですが、あくまで受注ツールでしかなかったので、本当にECビジネスをしていたかと問われたら、おそらくそうではなかったですね。  
 
石川 森生
ディノス・セシール CECO(Chief e-Commerce Officer)
新卒でSBIホールディングス入社。SBIナビ(現・ナビプラス)の立ち上げに参画、営業統括の責務を担う。その後、ファッション通販サイトのマガシークにてマーケティング部門の責任者、製菓製パン向けECサイトcottaを運営する株式会社TUKURU代表取締役社長を歴任。イントレプレナーとして常に企業の課題解決に従事。2016年2月、株式会社ディノス・セシールでCECO(Chief e-Commerce Officer)に就任。同年7月よりEC本部を組織。既存の枠組みを超える、サスティナブルなECビジネスを構築するというミッションを実践している。

徳力 それの、どこにおもしろさを感じたんですか。

石川 
逆に言うと、Eコマース単体にそれほど価値がないからですよね。

徳力 
それは前職までの経験で、ECしかない事業はつまらないと感じていたということですか。   
  
徳力基彦
アジャイルメディア・ネットワーク アンバサダー・ブロガー /ピースオブケイク note
プロデューサー
NTTやIT系コンサルティングファームなどを経て、 2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。「アンバサダーを重視する アプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。2009年2月に代表取締役社長に就任し、2014年3月より取締役。2019年6月末で退任、7月から現職。同月 ピースオブケイク noteプロデューサー/ブロガーにも就任。

石川 
いえ、面白いんですけど、価値がないんです。日本のEC化率を見れば分かりますよね。小売全体の10%にもいっていません。「ECのスペシャリスト」と言われてチヤホヤされていても、それがこの先も続かないことは、少なくとも2013年の後半頃から分かっていました。

徳力 
ECビジネスに限界を感じたのは、マガシークでファッション通販サイトのマーケティング部長をされていた頃ですか。

石川 
いえ、SBIで社会人になった当初から感じていたかもしれないですね。これから、すべてがECに置き換わるんだと思って業界に入ったわけですが、深く潜ってみると、ECはたしかに便利だし、一部を代替する可能性はあるけれど、だからと言って店舗が消えるとは思えなかったんです。

結局ECは、どこか別の場所で興味をもって購入を決めた後にしかアプローチできてないんです。しばらくは、その意思決定の場がWEBになる時が来るんだろうと思いながら見ていましたが、それが大多数になることは「一生ないな」と確信しました。


徳力 
欲しいと思ったものを買うツールとしては便利だけど、欲しいと思わせるきっかけにならないということですよね。

石川 
そうです。だから、EC至上主義のような考えはズレていると思いました。それを確かめるために、EC専業の事業会社に行こうとマガシークに行きました。色々経験させていただいて、ECだけで100億円の売上を作るすごさを実感しましたね。良い意味で、再現性が低いビジネスになっていました。

徳力 
どちらかといえば、ECをツールとして広く活用できる形にしたいと。

石川 
はい。だから、一度TUKURUで社長を引き受けたんです。その業界のECとしてはトップの規模にできました。結果、EC単体で価値を生み出そうとすることに意味はないなと確信しました。ECが強くなくても、顧客に素晴らしい価値提供ができている会社は他にもありましたので。

とはいえ、そこで少しは新しいことができたと思っています。徳力さんに言うのもなんですが、発信力のあるブロガーさんたちに協力していただいて、一緒にコンテンツや商品をつくっていたんです。

徳力 
単純に商品をWebサイトに並べて売るのではなくて、インターネットだけでは完結できないことをやろうとした結果としての取り組みですね。わざわざブロガーに、実際に会いに行くという手間をかけられていたと記憶しています。



石川 
そうですね、個人のトップブロガーさんに会いに九州にまで足を運ぶこともありました。アパレルと違って、菓子やパンの基本的な作り方は普遍性があるので、一度つくったコンテンツが半永久的に使えるんです。だから手間暇をかけて作ったコンテンツが資産として溜まっていくんですよ。

徳力 
その一方で、ECそのものの限界が見えてしまった。おもしろいですね。今の世の中的には、D2C(Direct to Consumer)の文脈もあってECの専門家は引く手あまたなイメージですが。

石川 
まあ、そうですね。ただ、それもTUKURUの時のようなコンテンツの文脈ではあっても、ECそのものではないかもしれません。

だから当時、TUKURUのメンバーには、もっと購買ファネルの上流を押さえるプレイヤーにならないと、確実にやっていけなくなるという話をしていました。

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