ミレニアル世代の旗手たち 徳力基彦インタビュー企画 #19
デジタルよりも、はるかにレベルが高かった紙メディア。その融合は、どう進む?
2020/04/21
最新のデジタルテクノロジーとDMを連携
徳力 昨年、行われた第33回全日本DM大賞では、石川さんが手掛けたディノス・セシールでのデジタルテクノロジーとDMを連携させた施策が評価されて、グランプリを受賞しました。
これはECの基礎の見直しで社内の信頼関係を築き、デジタル側に予算を取ってもらえるようにしたうえで、取り組まれたことだったのですね。
石川 そうです。ECの事業部は私がいなくても回るように組織ができあがったので、私はより未来への投資的な案件に着手できるような立場にしてもらってから、ようやく実験がスタートできました。
あの施策は、カタログのいいところだけを残して、ダメなところをデジタルテクノロジーで潰していくという発想なんです。いいところは、クリエイティブをきちんとつくり込むことや、リーチ確率が圧倒的であること、レスポンスがとにかく高いことなどです。
徳力 グランプリは「カート落ちDM」と「小冊子DM」の2作品で受賞していますが、どっちがメインだったんですか。
石川 カート落ちDMは、技術的なスキームの検証という位置付けです。カート落ちしたところに通常であればメールを送るところを、代わりにハガキを送るという施策。ハガキにカート落ちした商品を印刷して24時間以内に送るので、ECの中でトリガー発生から顧客に接触するまでのリードタイムが最も短いシナリオなんですよ。
徳力 難しいことから先にやったということですね。私は全日本DM大賞の最終審査員を務めているのですが、あれを見たときは本当にびっくりしました。
でも、冷静に考えてみると、たしかに閲覧されるか分からないメールよりも、ハガキの方が絶対に手に取って見られやすい。それは、実際に結果にも出ていました。では、メインシナリオの方は、小冊子DMですね。
石川 はい、小冊子DMでは、もっと本質的なCRMを実施したいと思っていました。ECに限らず通販全体がそうですが、みんなコンバージョンの手前まではすごく丁寧に接客するのに、購入した瞬間に手放してしまう。
「ロイヤリティマーケティングが大事だ」と言いながら、ロイヤリティを自分たちで全然温めていないんですよね。本質的なロイヤリティの醸成をしていないから、さっきも言ったようにECがコンバージョンの手前でしか利用されないのだというのが、僕の仮説です。
発想としては、量販店と戦う“街の電気屋さん”と一緒です。アフターフォローをきちんとするから、値引きをしなくても売ることができる。顧客はそちらの方がトータルのコストが安いと思えば買うし、高いと思えば量販店で買います。
そこで小冊子DMでは、購入した商品に似たアイテムを着こなしている写真をInstagramから抽出し、顧客ごとパーソナライズした小冊子として発送しました。