アフターコロナ:マーケティングは、どう変わるのか? #07

コロナ禍で大学は、“最高の映像コンテンツ”をつくる機関に進化する【近畿大学 世耕石弘氏】

前回の記事:
ウィズ・アフターコロナの消費者欲求は、失われた五感の回復【大松孝弘】
 

一番賑やかな時期のはずが、無人のキャンパスに


 新型コロナウイルスの感染拡大防止のため卒業式も入学式も、戦時中以来の中止になりました。キャンパスへの立ち入り禁止は、4月3日から続いています。

 近畿大学は学生数が3万3000人と、日本で3番目に大きな規模です。特に東大阪キャンパスは2万人以上が通い、時間帯によっては最寄りの駅から大学までの道も非常に混雑しています。そのため、大学としての方針を早めに決める必要がありました。
 
Webサイトのトップも、キャンパスが立ち入り禁止であるビジュアルに変更した。

 4月と言えば、1年間で最もキャンパスが賑やかな時期。校則に縛られてきた学生が髪を染めたり、浮かれたりして笑顔が飛んでいるんですね。それが、ほぼ人がいない無人のキャンパスになりました。

 授業は5月11日から、Zoomを使った遠隔授業に切り替えました。専任教員で約1000人、非常勤も含めると約2500人。全教員分のZoomアカウントを購入して、自宅や研究室から授業ができる体制を整えたのです。学生の出席はZoom上ではなく、大学のポータルサイト経由でとるようにしています。

 とは言え、ほとんどの教員が経験したことのない遠隔授業。その対応に、大わらわという状態です。
 

全リソースをWebに投入。大学界のイニシアチブを獲る


 マーケティング的な要素で言うと、高校生の大学選びにとって非常に重要なイベントであるオープンキャンパスを中止にしました。我われが高校に訪問して行う説明会や、企業が行う進学説明会での講演もできず、学生募集のツールはWebのみになっています。

 私たち広報部門に何ができるかと言うと、やはり発信できるメディアにフォーカスしていくことです。イベントがなくなった以上、その空いた手をとにかくWebに集中させています。

 今までのような“大阪ノリ”の面白いコンテンツばかりを公開するというよりも、学生向けに新型コロナウイルスに関する大切な情報を発信しています。学生は普段、大学の公式サイトなんか見に来ないのですが、今ほど見られているタイミングはありません。たくさんの情報を発信しているため、対策をまとめたページもつくりました。

 参考:【まとめ】新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する本学の対応について  

 また、近畿大学には医学部もあるため、感染症の専門家がいます。Web上で開催した「サイバー入学式」には、その感染症に詳しい先生から10分間の新型コロナウイルス対策の講義をしてもらいました。その動画をYouTubeに公開したところ、2週間で30万のアクセスがありました。今するべきことは、こうした必要な情報を届けることです。
 
新型コロナウイルス感染症対策講座「感染症の時代を生きる」

 特に新入生は入学式もなく、かといって遊びにも行けず、自宅で過ごさないといけません。そこで、この状況をどう過ごせばいいのか、卒業生の中でも有名人に「自分が学生だったら、この期間に何をして過ごしたか」というテーマでメッセージをもらいました。
 
近大生へメッセージ!「今だからこそできること」

 あとは、学生がZoomで授業を受けるとき、背景に悩んでいるという話を聞いて、近大オリジナルの背景集をつくりました。そこには、くすっと笑えるデザインも入れて「近大らしさ」を忘れないようにしたところ、卒業生も使っているようです。
 
近大を象徴する「近大マグロ」のバーチャル背景。近畿大学バーチャル背景ダウンロードサイト
 
マスクをマグロでカバーできる「マグロマスクカバー」のペーパークラフトも発表し、話題に。

 そんなふうに、全身全霊でWebに集中しています。一方で他大学を見ると、そこまで切り替えられていないところが多いように思います。私たち近畿大学は「変化に対応できる大学」という意識を持っていますので、まさにこういう危機にこそ瞬時に変化に合わせて、大学界全体のイニシアチブを獲っていきたいと思っています。

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