音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #16

人はなぜ、ガンダムを愛してしまうのか?【音部で壁打ち】

 

ガンダムの「専用機」の概念が生んだ文化


 ガンダムは、ブランドとしてすでにコカ・コーラと同様の状態にあると思われます。法的な所有権とは別に、多くのファンが「自分のもの」と思っているということです。 

 良い例として、『Hobby JAPAN』という老舗プラモデル雑誌が、1998年から続けている「全日本オラザク選手権」というガンプラ(ガンダムを主題としたプラモデル)の大会があります。「オラがザク」つまり「自分のザク」を応募するコンテストです。大会の名前にはザク(ガンダムに出てくるモビルスーツの代名詞的な機体)とありますが、その対象はザクだけではなく、グフでもドムでもガンダムUCでも応募できます。
 
写真提供:123RF

 そして、多くの機体はそれぞれ、思い思いの設定で独自に改造されています。まさに「ガンダムが自分のものとなっている」ことに立脚したイベントだと言えるでしょう。こうした二次創作は、ガンプラのコンテストに限りません。プロフェッショナルとファンによる正史あるいは外伝がいくつも創出されてきました。

 こうした活動を通して世界観が広がるという作用もありますが、「自分も世界に参加していいのだ」という個々の受け入れを可能にしていく懐の広さを感じさせます。排除せず、多様性を認めて仲間として受け入れるといった意味の、社会的な概念を指す「インクルーシブ(社会的包摂)」という考え方がありますが、ガンダムは、とてもインクルーシブなブランドとして確立されていると観察しています。多くのブランドは、そうした二次創作を許容しにくいものです。

 消費者を単なる視聴者ではなく、主体的な行動者とさせているもうひとつの要素が、登場人物ごとの「専用機」の設定です。多くの登場人物がモビルスーツを操縦しますが、自身の専用機を駆るエースパイロットも少なくありません。専用機のほとんどは、量産型を改修し、独自の塗装を施した機体です。完全オリジナルのワンオフ(一機だけ生産)の機体は、一部のプロトタイプ(実験機)くらいで、それほど多くはありません。

 この「量産型を改修して自分の専用機にする」という考え方は、1990年代前後のオートバイやクルマの楽しみ方に大きな影響を与えたという考察があります。この世代のライダーやドライバーにやたらと愛車を改造したがる一群がいるのは、「専用機」という概念が「文化」つまり「カッコいい、悪いの判断基準」になっているからだというのです。
 
写真提供:123RF

 こうした文化に導かれて、量産型として販売されていた車両に、ユーザー独自の改修が加えられて「専用機」となっていきました。多くの改造車両は違法ではないものの、量産型よりも機能的に格段に優れたものではなかったかもしれません。それでも、「専用機に乗っている」という絶大な高揚感をもたらしました。少なくとも、個人的な経験はそうでした。

 こうした価値観の創出を通して、バイクや車といった金銭的にも時間的にも負担の大きな趣味において、「ガンダム的な価値観を生きる」という経験を成立させられたことは、ガンダムの影響力の強さを象徴的に示しているように思います。

 長い文章となってきましたので、現時点での結論を逃げるように書いて終わりにしたいと思います。

 我われがガンダムを好きなのは、少し考えただけでも紙面が尽きるほど「好きな理由」をあげられるくらい、「多面的な魅力に溢れ、二次創作を含めた多様性を許容し、ユーザーが『自分のもの』と認識できるブランドだから」だろうと、分析しています。

 こうした点に着目すると、同様の二次創作的な展開がされているフォースの物語が米国にもあります。同じく外伝やスピンアウト作品がたくさんあるのです。あちらにはガンプラはないですが、コスプレしやすいように思います。こうした体験は参加を通して、「自分のもの」という感覚を醸成しやすいでしょう。

 この記事を読んで、世のガンダム好きのマーケターは、それぞれに異なる説を唱えるものと思われます。ただ、それもまた「多面的な魅力に溢れ多様性を許容し、『自分のもの』と思わせられる」ブランドゆえのことだからでしょう。
 
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