マーケターズロード 鹿毛康司 #02

ひとりの人として、お客さまと向き合う原点になった雪印時代―鹿毛康司

 

「お客さまと向き合う」という言葉の重み


 一方で、マスコミで報道されることと、僕が中で見ていた雪印の「本当の姿」が違っていることもあり、コミュニケーションの良し悪しがいかに重要かを感じました。リスクコミュニケーションのミスも重なっていたから、「きちんと事実を説明すれば、わかってもらえる」という段階は、残念ながらあの時は過ぎていました。
 
 僕が中で見ていた「社員の心からのお詫びの気持ちと、変わる姿」を世の中に届けるしかないと思って、自主的な活動をはじめました。たくさんの人がその活動に参加するわけですが、事務局自体は7人です。

 世の中にちゃんと詫びる、そして変わる社員を見ていただく。そういう嘘いつわりのない新聞広告づくりに取り組む。そのためにマーケティング手法でいう「グループインタビュー」を何度も行いました。普通の調査ではないですよね。ふと横にいるメンバーを見ると、みんな泣いてるんですから。そうやってお客さまに向き合うという体験をしました。



 この時の活動はNHKスペシャル「会社が信頼を失ったとき~雪印社員たちの苦闘~」で放送されることになります。僕以外の6人は、テレビに出るために活動をしているんじゃない、と取材に反対だったのですが、いろいろあって全員がカメラに映ることに協力してくれました。

 今だから言えるけど、あれ辛かったですよ。朝から晩まで3カ月間カメラがいるわけです。この時は全員が「会社を辞める」と決めていたと思います。僕たちの部屋の壁には「信頼回復をしたら去る」と書いた貼り紙をしていました。これ美談なんかじゃないですよ。けっこう切実で、我われはカメラの前にいるので、就職活動なんてできないわけですから(笑)。
 
 結局、7人中5人が会社を去りました。全員いなくなるのは寂しいと、2人にはみんなが「残ってほしい」と頼みました。そのうちのひとりは、現在の雪印メグミルクの専務になりました。

 お客さまに本気で向き合い、このことを風化させてはいけないとずっと頑張って活動し続けられて今度、退任されます。僕はこの仲間から、社員から、そしてお客さまからいろんなことを教えてもらいました。

 「手法でなんでもできる」という、どうしようもない私に「マーケティングは心だ」ということを教えてくれました。それが、のちの震災後の「ミゲル少年が歌う消臭力CM」につながるんです。



※第3回 「鹿毛康司の人生を変えた人」に続く
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