解説・ビリー・アイリッシュ 日本でヒットさせたマーケティング戦略 #02

日本では「bad guy」を打ち出す。ストリーミング市場で勝つ、ビリー・アイリッシュ陣営の選択

 

フェーズ4:ソーシャル施策の増強


 フェーズ4では、認知拡大に続いて、ビリーへの興味関心を深めてもらうためのさまざまな施策を展開した。

 中心に置いたのはソーシャルメディア。Twitterで「#ビリーアイリッシュ」をつけて投稿するとパーカーなどのオリジナルグッズが当たるプレゼントキャンペーンを実施したところ、予想以上の反響があった。また、ダンサーに「bad guy」を踊ってもらったり、ビリー好きのYouTuberにビリーの魅力を語ってもらったりといった、インフルエンサーを起用した企画も積極的に展開した。

 Webやラジオ、テレビといったメディアでビリーに言及している人がいないか探したり、これまでに蓄積したネットワークを駆使してリサーチを重ね、「この人は」と感じたインフルエンサーに対して横井氏が一人ひとり声をかけ、企画を実現していった。

横井 特に、グッズの反響には驚きました。社内の音楽レーベル事業とマーチャンダイジング事業の取り組みが連携して、会社を挙げてビリーを打ち出していく体制が確立されました。使うメディアはデジタルですが、企画実現までのプロセスは極めてアナログです。フェーズ1のパーソナル・コミュニケーションにも通じる話ですが、結局のところ、そうして丁寧につくり上げた関係性こそが、良い企画を生むという実感がありますね。



 各種ストリーミングサービスで、ビリーの楽曲を能動的に検索して聴く人の数が増えたのは、2019年9月頃のこと。背景には、「テレビ番組への出演」があった。

 アルバム発売以降、6~7月に広告、7~8月にSNSと施策を展開してきたものの、時間を経るごとにストリーミング再生回数やCD売上、ソーシャルメディア上での言及量の伸びは徐々に鈍化してきていた。さまざまな商品・サービスやコンテンツが人々の可処分時間を奪い合う今の時代、新曲など、常に鮮度の高い話題を投入しなければ、瞬く間に忘れ去られてしまいかねない――現代のあらゆるブランドが抱える悩みのひとつだ。

 横井氏が、ビリーの個性や強烈なキャラクター性を日本のファンに届けるべく選んだ手段。それが「テレビ出演」だった。朝の情報番組『スッキリ!』(日本テレビ)と『めざましテレビ』(フジテレビ)、そして『前山田×体育のワンルーム ミュージック』(NHK)に、ビリー本人が出演。これによって増えたリスナー数は10月・11月も維持され、各ストリーミングサービスの「2019年総括プレイリスト」にラインナップされた。
 
https://twitter.com/ooiri_muroya/status/1168894017347756033

横井 兄・フィニアスと自宅でつくった楽曲を、オンラインにアップしたことが、ビリーのデビューのきっかけ。「せっかくつくったものも、オンラインで公開しなければ誰も見てくれない。」――ビリーのリアルな体験と等身大の言葉に、勇気づけられた若者がたくさんいたようです。

佐藤 ビリーについて、これまでは限られた情報しか知らず、踏み込みきれていなかった人が、テレビという、日本においてまだまだ強大な影響力を持つメディアを通じて“答え合わせ”をしたのではないかと思います。本人が語る姿を通じてビリーを改めて知ることが、ビリーに対する興味関心を深めることにつながったのではないかと。

そうしてテレビを見た人が、さらなる情報を求めて検索した先の受け皿は、すでに用意できていました。2019年の1年間をかけて、認知から興味喚起、行動喚起、そしてファン化のサイクルを回すことに成功したと言えます。  
 
佐藤宙
ユニバーサルミュージックインターナショナル マーケティング第1部 本部長 兼 アーティスト&メディア・リレーション部 部長
1998年旧ユニバーサルビクター入社、洋楽宣伝を担当。2001年より現ユニバーサルミュージック インターナショナルで制作編成を担当。2007年チーフ・マーケティング・マネージャー、その後デジタルマーケティング統括、マーケティング部部長を経て、2018年より現職。マルーン5、アヴィーチー、テイラー・スウィフト、アリアナ・グランデなどの多数のプロジェクトを率いる。
 

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