解説・ビリー・アイリッシュ 日本でヒットさせたマーケティング戦略 #03

ユニクロとのコラボが話題、週間再生回数250万超え「日本でのビリー・アイリッシュ成功要因は、グラミー賞受賞だけではない」

 

アーティスト再来日に向けて、さらなる認知向上をめざす


 佐藤氏と横井氏は、日本におけるビリー・アイリッシュの成功の要因は、決してグラミー賞受賞だけではないと断言する。なぜなら、洋楽アーティストのマーケティングでは、アーティスト自身の協力を得ないことには実現しない企画がほとんどであるためだ。

 2019年9月の日本のテレビ番組出演、2020年1月のテレビドラマタイアップなど、グラミー賞受賞に花を添えた企画の数々は、アーティストおよびマネジメントサイドと長きにわたって築き上げてきた関係性なしには、決して実現しなかった。

佐藤 繰り返しになりますが、アーティストは意思を持つ“商材”。こちらの希望通りに「YES」を引き出すことは容易ではありませんし、一人ひとりユニークな個性を持っていますから、「これをやれば間違いない!」という方程式もありません。

その点で、戦略の再現性はあまり高くないと言えると思います。サム・スミスをはじめ、グラミー賞をきっかけに日本でヒットした洋楽アーティストは他にもいますが、ビリーのような“下積み”期間を経たアーティストは前例がありません。世の中に「大きな事象」をつくり出していくまでのプロセスは参考になることも多いと思いますが、無論、それで確実にヒットするとは言い切れません。 
    
    
佐藤宙
ユニバーサルミュージックインターナショナル マーケティング第1部 本部長 兼 アーティスト&メディア・リレーション部
1998年旧ユニバーサルビクター入社、洋楽宣伝を担当。2001年より現ユニバーサルミュージック インターナショナルで制作編成を担当。2007年チーフ・マーケティング・マネージャー、その後デジタルマーケティング統括、マーケティング部部長を経て、2018年より現職。マルーン5、アヴィーチー、テイラー・スウィフト、アリアナ・グランデなどの多数のプロジェクトを率いる。

 2020年9月に横浜アリーナで予定されている初の単独来日公演は、収容人数1万2000人。チケットは瞬く間に完売した。チケット販売サイトには1日10万人がアクセスしたことがわかっている。

佐藤 我々が想定していた以上に、アウェアネスが高まっている。開催できるかどうか現時点では不明ですが、来日が叶えば、日本においても不動のアイコンになるのではないかと期待しています。bad guy以外の既発曲のヒットと9月に向けて新しいコンテンツをつくり、発信し続けたいと思っています。

 主眼に置いているのは、邦楽しか聴かない人へのアプローチ。施策の一例として、なかやまきんに君さんに『you should see me in a crown』を使用して「自宅で出来る簡単筋トレ10種目」を実践してもらい、お手本動画を自身のYouTubeアカウントで公開してもらった。音楽、ファッションに留まらず、「お笑い」という新たなクラスターにアプローチしていきたい考えだ。

 他にもWeb・SNSを活用した企画を中心に展開していくべく、さまざまな著名人にアプローチをかけており、来年にかけて認知度40%を達成することを目標に掲げている。

★なかやまきんに君「自宅で出来る簡単筋トレ10種目」

佐藤 ディー・ガ降、老若男女に知られるカリスマ的な立ち位置の洋楽アーティストは長らく登場していません。そんな存在になり得るのがビリー・アイリッシュだと思っています。とはいえ、課題はまだまだたくさんある。ビリーの音楽と、ビリーというアーティストそのもの、両軸のアピールを行い、海外と同様、日本で国民的アイコンに育て上げていきたいですね。

 日本の若者の“洋楽離れ”が言われる中で、またCDからダウンロード、そしてストリーミングへとビジネスモデルの大変革の最中にある音楽業界でのビリー・アイリッシュの成功。ここには、他業界のマーケティング活動にも参考になるポイントが数多く含まれていた。

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