アフターコロナ:マーケティングは、どう変わるのか? #特別編
有料チケットを5000枚以上販売。「劇団ノーミーツ」会わない制約から生まれた新しいエンタメの可能性
エンターテインメントの可能性の提示
新しいエンターテインメントの誕生の裏には、新しい技術者が生まれる。広屋氏は「僕らがやるべきことは、今できる最大限のアイデアを用いながら、フルリモートでこれ程のものがつくれるということを伝えること。それが演劇業界やライブエンターテインメント業界、映像業界に対してひとつの新しいアプローチの提示になるのではと考えています。だからこそフルリモートにこだわり、非対面の中でできる表現を探っているんです」と話す。
そうして広屋氏が新しい表現を模索する根底には、役者や演者がもっと輝く場所を広げたいという考えがある。「日本では芸能事務所に入り、売れてスターになる道が正規ルートだという風潮がありますが、海外に目を向けると、ひとつの演劇においてもジャンルは幅広く、表現に対するハードルも低い。そのことを昨年末に行ったニューヨークでのエンタメ武者修行を通して、身をもって感じました」(広屋氏)。
ニューヨークでは、日本での表現活動に対する地位の低さや不寛容さに改めて気づかされたという。「日常の生活にエンターテインメントや表現が溶け込んでいる感覚があり、本当に素敵でした。路上のアーティストの接し方ひとつにしても、人々が敬意を持っているんです。同じような文化を日本でつくるのは、国民性も違うため難しいかもしれません。ですが、コンプライアンスなどで様々な制限がかかる日本の窮屈さは、表現の自由と相反している気がしました。そうした想いもあり、日本で演劇や表現する人たちが、今までと違う切り口で表現をつくることを大事にしたかったんです」と語る広屋氏。
さらに、不要不急の外出が控えられるなかで、エンターテインメントの扱いがおざなりになる風潮を問題視している。「日本は海外と比べて、オンラインでのエンターテインメントがまだまだ少ない。むしろ僕は日本から新しいオンラインの可能性を打ち出していきたいんです。そこで、エンターテインメントに関わる人たちがノーミーツをどんどん真似して、それぞれで実験をしながら新しい道を開き、業界全体が盛りがっていく状態が理想ですね」(広屋氏)。
劇団ノーミーツでは、第2回長編公演となる「むこうのくに」が7月23~26日に上映されることが決まった。今回の作品ではZoom以外の手法を取り入れ、「これ、どうやってるの?」と観客を驚かしたいと意気込む。一度も会わずにどこまでのものをつくれるのか。フルリモート演劇の限界の、そのまた限界に挑戦しているという。「オンライン上での観劇体験は観客の予想以上になっています。僕たちの挑戦にワクワクしてもらい、触発されてほしいです」(広屋氏)。
新たな表現の可能性を開拓できる寛容な社会をつくるタイミングは、社会が再編される今であることに違いない。新しいエンターテインメントに挑戦する彼らの姿は業界を超え、一人ひとりの背中を後押しするものになっている。
▼劇団ノーミーツ 第二回長編公演「むこうのくに」
https://no.meets.ltd/mukounokuni/
(文・三田 理紗子)
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