TOP PLAYER INTERVIEW #25

世界的デザインファーム フロッグが語る、コロナ禍における「イノベーションの現在」

 

経営層に「デザイン思考」を浸透させるカギ


――この数年、日本でもデザイン思考を採り入れ、イノベーションによって企業価値を大きく伸ばそうという企業が増えています。しかし、導入がうまくいっている企業と、そうでない企業があるようです。その差は、どこから生まれるのでしょうか。

 おそらく、企業には大きく2通りの考え方があると思います。ひとつは、オペレーションのマインドセットが非常に強い組織。すなわち、すでに構造化された方法があり、それをさらに良くするには、どうすればいいかという考えに傾注している企業です。特に、歴史のある会社にその傾向が見られます。

 もうひとつは、クリエイティブで探求心のあるマインドセットの組織。「チャレンジする」「前提を覆す」「いち早く失敗してすばやく次に生かす」など、どうすればイノベーションが実現できるかを常に考え続けています。

 私が見てきたなかで、デザイン思考がどうしても定着しなかった企業は、経営層がオペレーションのマインドセットに固執しているケースでした。「イノベーションは重要だ」と言いながら、その人自身が新しい働き方に対応できていないなど、デザイン思考の知識だけを得たところで恩恵は受けられません。



――オペレーションのマインドセットが強い企業の経営層を変えるためには、何が必要でしょうか。

 マインドセットを変えるためには、上から下までさまざまな社員の意見に対して聞く耳を持ち、ビジネスを超えた関係性からもアイデアを求める姿勢が大事だと思います。そのために、まずはスーツを脱いで、みんなでご飯に行き、一緒に顧客を知るためのフィールドリサーチに参加することをおすすめしていますね。

 歴史ある大企業にとって、新しい考え方を取り入れるのは難しいことかもしれません。ただし、真にデザイン思考を実行していくためには、経営陣が意思決定者としてだけでなく、参加者としてプロジェクトに加わることが大切です。

 私がクライアントに対して心掛けていることは、その会社や経営者に鏡を向けて、その姿を映して、イノベーションには新しい働き方が必要で、そのために社員や顧客とのインタラクション(相互作用)の必要性を理解してもらうこと。物ごとは全員参加の方が、いいイノベーションができると信じているんです。

――参加者として経営者を巻き込むためには、どうすればいいでしょうか。

 たしかに難しい面もあります。ただ見ていると、参加者のひとりとして社員に混ざることに気恥ずかしさを感じている方が多いので、重要なのは経営者と良い関係を構築してセーフスペースをつくってあげることです。

 具体的にこうすれば、うまく巻き込めるとは言えませんが、しっかり関係が構築できていれば、多少厳しい要求も受け入れてもらえると考えています。

――最後に、これからデザインやコミュニケーション、マーケティング領域を歩もうとしている人たちに向けて、今の時代を踏まえてアドバイスをいただけますか。

 何よりも人間関係を大切にしてほしいと伝えたいです。この業界はグローバルで見ても非常に小さく、たとえば、私がフロッグに新しくジョインする人を採用しようとしているときや、何らかのプロジェクトでパートナー契約を結ぼうとしているとき、自分のネットワークを使って、その人と仕事をしたことがある人を探します。

 そうすると、ひとりは必ず見つかるんです。デザイナーやマーケターは共創の仕方や自分の見せ方などの仕事ぶりが評価のベースになるため、これまでに誰かと良いチームプレーができていなかったり、約束を守れなかったりすることがあれば問題になるでしょう。当たり前かもしれませんが、日々の仕事を大切にし、会議には毎回必ず出席して全力で貢献することが一番大切なのです。
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