マーケターズロード 鹿毛康司 #04

最初から御膳立てされた、ステージなんて誰にもない―鹿毛康司

 

結果を出し続けるしかなかった


 今は時代と共に考え方も変わってきましたが、当時の私の良い広告の定義は「売れる広告」です。マーケティング的に正しく、そして商品が売れなければ広告の力ではないと決めました。

 当時の鈴木喬社長(現会長)には、毎週POSデータを見せていました。同時に少ない予算でどこまでCMが届くのか、到達力も大切にしました。その証明には色々な指標を使いましたが、わかりやすいところでは、CM好感度ランキングを使いました。「あなたの好きなCMを書いてください」という純粋想起調査ですから、これにはまったく企業の意図が入らない結果が出てきます。



 1カ月に3000種類のCMが放送される中で、いつか総合ランキングベスト10に入ってやると、大それた野望を持ちました。ですが、その調査をしている会社の関根建男社長(当時)は、「なかなか簡単ではないが、ベスト10に入ったら食事をご馳走しましょう」と約束してくれました。

 そして手掛けた2作品目のCMが、総合ランク4位を取る結果を迎えます。ちなみに該当月の売上は前年比167%。エステーの本物の支店長たちが腰をくねらせて踊る消臭ポットのCMです。関根社長には上野でおいしいご飯をご馳走になりました。これは接待ではないですよね(笑)。



 消臭ポットで支店長に出演してもらった理由が、2つありました。ひとつは、いかにCMをつくることに労力がかかるかを、身をもって体験してもらおうという狙いです。CM撮影時、支店長たちには朝から晩まで100回くらい踊ってもらいました。

 もうひとつは、出演することで全国の支店長が消臭ポットを力強く販売してくれるだろうとの考えです。「支店長ズ」なんてネーミングをつくって、パンフレットまでつくったら流通さんに力強く案内してくれると思ったし、流通さんとしても断りきれなくなるんじゃないかと思いました。

 次に手掛けた消臭力のCMも、ベスト10にランクインしました。関根社長(当時)はお亡くなりになりましたが、彼はその昔、日産自動車の「隣の車が小さく見えます」という名コピーをつくったクリエイターでもあり、ずっと私の師匠でした。どの宣伝部も、広告会社にクリエイティブをどうやってつくってもらうか悩んでいましたが、師匠は「自分でつくりなさい」とアドバイスをしてくれたのです。そして、こうも言いました。

 「業界に遠慮することはないよ。あなたは宣伝部長なんだから、クリエイティブディレクターを任命する権限を持っているんだよ。あなたは、あなた自身をクリエイティブディレクターに任命しなさい。そして、あなたなら成功する」と背中を押してくれました。

 業界に味方はいない、と荒れていた私にとっては嬉しい存在でした。それ以降、私は関根社長を父親のように慕って相談していました。

 それから7年間、ずっとCMをヒットさせてきました。関根社長が言うには、そのパフォーマンスは予算の7倍から10倍の結果になっていると。消費者からも圧倒的に支持されましたが、業界では「どうせまぐれだ」「エステーはただのウケ狙いのくだらないCMをつくっている」などと言われ続けていました。

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