マーケターズロード 鹿毛康司 #04

最初から御膳立てされた、ステージなんて誰にもない―鹿毛康司

 

「ミゲル少年が歌う消臭力CM」が何かを変える


 2011年3月15日、朝5時50分。その夢をCMにします。雪印時代から考え続けてきた企業理念とは何か、そして東日本大震災直後にTwitterを見続けてずっと思考していたことが夢になって解決策をくれました。

 震災後に初めて制作されたCMとして有名になった、ミゲル少年が歌う消臭力のものです。7万人が津波で亡くなったポルトガルの首都・リスボンを背景に少年が歌うだけのCMです。CM好感度の上位ランクを狙うことは、全く考えていませんでしたが、放送月で日本2位になります。そこにTwitterで知り合った西川貴教さんが参加して8月には日本1位をいただきました。



 そこから周りの評価が急激に変わります。それまで認めてくれなかった広告賞などもたくさんいただきました。自分の中ではいつも通りのスタンスだったし、いつも通りの思考でCMをつくったまでのこと。ですが、世の中の評価はガラリと変わった。会社には超大物が所属する事務所から出演希望の電話がたくさんかかってきました。もちろん西川貴教さんがいる限りそんな話には、一切のりません。西川貴教さんは、心意気で私たちと組んでくれたのですから。



 そんな、宣伝部長になったばかりの2004年当時からは考えられない環境に変わっていきました。嬉しさよりも、世間というのはゲンキンなものだなあという感情の方が大きかったのを憶えています。もちろん、「エステーごときが広告を語るかよ」という声はなくなりました。

 小心ものが覚悟を決めると大になる。長かったけれど実現した年でした。「周りからは好き放題やって楽しいだろうね」「良い環境で仕事ができて羨ましい」なんて声も聞こえてきましたが、本当はそんな環境なんて誰にも用意されてないとわかっていただけるんじゃないでしょうか。

 次回は、もう少しどんな思考でクリエイティブをしているのかをお話していきたいと思います。

※次回「本邦初公開。鹿毛康司が明かす、マーケティングの盲点と、クリエイティブの真実」に続く
 
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