マーケターズロード 鹿毛康司 #05

本邦初公開。鹿毛康司が明かすマーケティングの盲点と、クリエイティブの真実

 

マーケターは判断基準を言い続け、素人領域には口出ししない


 次に、この構想に沿って具体的な広告案を生み出すクリエイティブがあります。プランニングの段階です。そのうちのひとつがCM企画だったりします。ここは、広告主側はCDに託すことになります。CDの役割で重要なのは、参加するクリエイターさんたちに何を生み出してほしいのか、そして最終案としてどれを選ぶかというディレクション業務です。

 最初に構想と判断基準ができていれば、CDに託すことができますよね。案づくりから選択まで、その判断基準をチームメンバーがしっかりと守り抜く。広告主だとか、広告会社だとか、地位が高いとか低いとか、そういうことではなく判断基準をボスにするということです。

 やっちゃいけないのは、この段階で広告主側やマーケターがジャストアイデアを口にすると、プランナーたちがそれに合わせて「案を自分たちのマネタイズだけで当ててくる」事態が起きます。これ本当にやめた方がいいですよ(笑)。

 マーケターが思いつきや好き嫌いで、「この案はもっとこうやってみたら」なんて会話が飛び交うことってありませんか。ですが、大事なことはチームとして「しっかりと決めた方向性に沿うアイデアかどうか」を見極めること。そういう制限の中で、どこまでボールを飛ばすか。どこまでジャンプできるかだと思います。制限のないところで、ただ面白いアイデアは、正直いくつでも考えられます。構想に沿ったアイデアをチームで生み出す。そういうことなんだろうと思います。
 
CM監督する時の愛用の椅子。

 ちなみに、エステーの場合は、CDはふたりいます。私と篠原誠さんです。この2人で具体案をつくる時もあるし、プランナーさんのアイデアを採用することもあります。こういうところは個人レベルの再現性のない話です。ただ構想と判断基準にそって、CDにしっかりと依頼するというマネジメントには、再現性は大いにあると思います。

 しかし、ここまでは、まだまだ机の中の企画書段階です。これを現実のものとして制作しなければいけません。声を大にして言いたいのは、このプロセスで素人は絶対に具体的な口出ししてはいけないということ。マーケターは制作の素人です。デザイナー、演出家(CMや動画の監督)、衣装さん、カメラマンさん、音楽家・・・。そういう人たちは、その領域の職人さんです。「この色はもっと赤みをいれて派手に目立つように」、「このカメラアングルはこうして」、「ここの編集のカットのはもっとこうして…」、と素人であるマーケターは口だしするのをやめるべきです。制作の前に決めたことは「建築で言えば設計図」みたいなもので、制作スタッフは「家を建ててくれる大工さん」だったりするわけです。

 建築家が大工さんの道具を勝手に使って、釘を打ったりしないですよね。それを広告主だから、マーケターだからとやっちゃいけない領域です。ただし、先に決めたクリエイティブの目的にそっていなかったら、先ほどから言っている「判断基準」をちゃんと口にして、CDを窓口にして修正をお願いしてみる。制作途中でCDと腹を割り、「ここの部分は判断基準にそっていない」と提示したうえで解決策をCDに委ねることだと思います。そうしないと制作現場が混乱してしまいます。もちろん広告主側、マーケターは、自分のお金を払った上で中止したり、やり直しをお願いすることもできますが、これはみんなにとって不幸ですよね。

 ちなみに、この制作段階で、私はCDの領域をさらに超えて監督やったり音楽つくったりと、制作の仕事をしたりします。これはかなり特殊です。完全に個人のクリエイティビティの話なので再現性は全くありません(笑)。

 クリエイティブの領域をきちんと因数分解して、そのステップごとにマネジメントする。ゴールを達成する構想と、判断基準を言い続ける。具体案に口だししないけれど、その判断基準にそっているかどうかは首尾一貫して言い続ける。そして責任をもつ。そういうことがマーケターのクリエイティブに関係する仕事なんだと、私は勝手に思っています。まあ、本当のところは、よくわかってないのかもしれませんが(笑)。
 
鹿毛康司の勝手なクリエイティブ公式

判断基準✖️[{クリエイティブ構想(Marketing+Money+Movement)✖️プランニング✖️制作}✖️クリエイティブジャンプ]=クリエイティブ成功
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