マーケターズロード 鹿毛康司 #06
「ここに鹿毛康司あり」 快進撃のエステー広告はコンテンツマーケティングだった
2020/09/24
常識を破ったからできた、日本初のシリーズCM
次に重要なことは、常識を疑うということでした。例えば、テレビはフリークエンシーが大切で、リーチをとれるメディアだと言われていました。
だとすると資金力のあるところには敵いません。また、当時Twitterもなく、ブログだけがネットユーザーが声を出せる唯一の場所だったのですが、常識ではブログの活用は「インフルエンサーをつくる」ことであり、「企業がユーザーと会話はできない」と考えられていました。
エステーはフジテレビ系列の月9ドラマのスポンサーです。そこにCMを放映するわけですが、よくよく考えるとドラマは毎回違う内容を放送しますよね。違うドラマが毎週放送されているのに、接触回数を上げようと、毎回同じCMを何度も見せることは必要なのか。
それよりも毎週ドラマが違うのだから、面白いコンテンツ性のあるCMにすれば、逆に受け入れてくれるのではないか。そんな想いから、週替わりに新しい「消臭プラグCM」をオンエアする企画が生まれました。
全11話からなる“殿様シリーズ”でネット民は見事に遊んでくれました。反響はとてつもなく大きかったです。様々なブログでその感想が書かれるたびに、自社サイト「エステー宣伝部ドットコム」のブログで記事を書き、間接的に会話をしました。さらにそれを見たブロガーが、自分のブログにコメントを書くという展開がつくられていきました。Twitterがまだない頃に、ちょっと距離はあるものの、Twitterの世界観でやり取りができたと思っています。
この手法も、当初は広告関係者から常識的にあり得ないと反対されたのですが、うまくいった事例です。今では普通にシリーズCMを見かけますが、この時におそらく日本初のシリーズCMが誕生しました。
その後、2007年あたりからTwitterが普及します。エステーでは月9ドラマのスタート日に合わせて新CMを放送していたのですが、ある時、制作が遅れてその日に間に合わない事態が起こりました。
そこで考えたのが、出演者に「新しいCMを放送しようと思ったのですが、間に合いませんでした。来週にはできます。自動でシュパッと。」と言っていただき、それをそのまま放送することでした(笑)。これにネットの人たちは驚いて、自社サイトへの来訪が増えると見越したので、サイトに何があるかでコトが起きるかどうかが決まると考えました。そこでサイトにお詫び文章を堂々と出したんです。
企業がお詫びを書くなんてことは、通常ではあり得ませんよね。「この度は新CMが月9ドラマに間に合わずすみませんでした。来週にはできます」と打ち出しました。これちゃんと役員会にもかけたんですよ。そもそもドラマスタート日に新CMを放送するなんて誰にも約束していないことを、お詫びしているわけです。Twitterは大騒ぎです。「新CM放送できて良かったね」の温かいつぶやきがタイムラインに流れ続けました。
たぶん業界の人だと思うけど、「こんな手は一度しか使えないよ」なんて批判する声もありました。でも、一度でも使えればいいじゃないですか。一度しか使えない世の中にないことを考えて、それをやり続ければそれでいい。
時代はどんどん変わっていきます。テクノロジーもツールも、世の中の動きもどんどん変わっていく。新しいツールはどんどん取り入れていけばいいと思います。私も1992年から追いかけ続けてきました。
ですが、それ以上に大切なことは、ツールありきで考えないこと、世の中の常識に囚われないことだと思ってやってきました。そもそも失敗したって怒られませんし。成功してほかの企業が手法をコピーしてきても、また次の手法を生み出せばいいし。そう思ってやってきました。
そんな想いでやってきましたが、ある時、ものすごい宝ができていることに気が付きました。それはお客さまとの絆です。いま「ファンベースドマーケティング」という言葉が登場していますが、エステーは知らず知らずに基盤をつくっていました。だから、この数年はそこにフォーカスして活動しています。
次回は、私が取り組んでいる「ファンベースドマーケティング」についてお話したいと思います。
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