よなよな流「ファンベース・ブランディング」―ファンの熱狂をブランドの力に変える方法 #03

「よなよなエール」流、熱狂的ファンの力を引き出す4つのトリガー【ヤッホーブルーイング 稲垣聡】

前回の記事:
「よなよなエール」は、ブランドイメージを管理ではなく共創する【稲垣聡】

誰もが、熱狂的なファンの影響を受けている


 高校の部活動の2年後輩に、T君という人がいます。

 男子の比率が「インドの青鬼」のアルコール度数(編集部注:7%)並に少ない吹奏楽部で、しかも同じ楽器のパート。同期ほどではありませんが、それなりに関係が深く、卒業してからも何年かに1回は顔を合わせていました。

 時は流れて2010年頃。ある日、T君から電話があり、ビールイベントに誘われました。聞けば、クラフトビールとかいう変わった味のビールが楽しめるとのこと。

 行ってみてわかったのですが、T君はとあるクラフトビール醸造所(ヤッホーブルーイングではありません)のファンだったのです。その時、私もその醸造所のビールを薦められて、飲んでみると美味しかったので好きになりました。

 思い出してみると、そのイベントには他にも非常に評価の高い醸造所が参加していて(当時は知る由もありません)、そのビールも飲んだはずです。しかし、私が最初に好きになったビールは、T君に薦められた醸造所のビールでした。

 その醸造所のブランドと、一消費者の「私」という関係で見てみると、T君というファン(アドボケイツ)を介して、ブランドを認知し、ビールイベントという場で飲用し、ビールの味を好ましく評価し、楽しい気分を記憶したということになります。
 

ブランドを印象づける、「友人」と「機会」

ケラーの「ブランド・エクイティ・ピラミッド」。出典:「ケラーの戦略的ブランディング」(東急エージェンシー出版部・刊)
 ケビン・ケラーの「ブランド・エクイティ・ピラミッド」にこのエピソードを当てはめれば、イベントの数時間で第1階層のセイリエンス(認知)から第3階層のジャッジメント~フィーリングまで到達したわけです。

 特にブランドに対する感情的反応、つまり理性的な“良い”ではなく、感情的に“好き”“楽しい”という気持ちが、初めての接触で生まれることは珍しい。ミクロな視点ですが、アドボケイツたるT君のブランドへの効果は非常に大きかったと言えるでしょう。

 では、ここで思考実験をしてみます。

もし、ビールイベントではない場面だったとしても、T君はその醸造所のビールを私に薦めたでしょうか。普通、久しぶりに知人に連絡して「いいものがあるから君にお薦めする」などと言い出したら、「何かアヤシイ商売でも始めたのか」と思われてしまいますよね。

あるいは、仮にビールイベントに行ったとして、薦めてくれたのが気心の知れたT君ではなく、その日知り合った人ならどうでしょうか。試しに飲んでみるかもしれませんが、T君に薦められた時ほど、初めて知ったブランドに対して、感情的に“好き”という気持ちにはならなかったと思います。

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