よなよな流「ファンベース・ブランディング」―ファンの熱狂をブランドの力に変える方法 #03

「よなよなエール」流、熱狂的ファンの力を引き出す4つのトリガー【ヤッホーブルーイング 稲垣聡】

アドボケイツ独特の推奨動機とメジャー感

 第3のトリガーは「推奨の動機」です。

 一般に、口コミを促進するとされる、承認欲求、ソーシャルな価値といったものと、アドボケイツの推奨動機は少し違います(重なる部分もあるでしょうが)。

 むしろ他人に喜ばれたり、相手が自分と同じものを好きになってくれて共感の輪が広がっていく喜びが動機として明確に表れてきます。

 また、推奨動機を促進したり、ブレーキをかけたりする補助的な要素として「知覚認知率」というものもあります。これは実際の認知率ではなく、「世の中にどれくらい認知されていると思うか」という感覚、いわばメジャー感がどれくらいあるかということです。

 「知覚認知率」が低い、つまりメジャー感の乏しいブランドは口コミされにくいと言われています(山本晶『キーパーソン・マーケティング』)。非常にマニアックなものを人に薦めたところで、「ふうん、そうなんだ。知らんけど」などと言われてしまい、悲しい気持ちになるのは容易に想像できますよね。
 

五感で感じられる=伝わりやすい


 最後のトリガーは「物的証拠」です。

 これは、推奨する機会に推奨する商品を渡すべきというわけではなく、五感で感じられるようなものがあると、伝えやすいし、伝わりやすいということです。

 『フェイス・トゥ・フェイス・ブック』(エド・ケラー、ブラッド・フェイ)いう本に、面白いデータがあります。アメリカには、ネットだけでなくリアルな口コミを計測している企業がありますが、総じてリアルな口コミの量がネットの口コミの量をはるかに上回るのだといいます。そんな中、最もネットの口コミの比率が高いのは、「メディア、エンターテインメント」カテゴリだそうです。たしかに、映画や音楽などは、YouTubeなどの動画サービスによって、ネットだけでお薦めを十分に伝えられるし、伝わるわけです。
 

ファンの力を引き出すのがマーケターの仕事

「超宴」のグッズ
「インドの青鬼」のお面
 熱狂的なファン=アドボケイツがいるからといって、自然にブランドを推奨してくれるのを待っているだけでは不十分です。企業が4つのトリガーを考慮して、積極的に仕掛けをつくっていくことが重要なのです。

 「超宴」のようなイベントは多くのトリガーに当てはまる機会ですが、そこまで大規模でなくても、普段使えるようなグッズ、例えばスマートフォン用のステッカーを配布・販売したり、ビールなら飲食店でノベルティを配布したりと、アドボケイツたるファンと友人の間で会話のきっかけになるようなものをつくるという方法も考えられるでしょう。

 推奨のシーンは日常のさまざまな場面に隠れています。それを最大化するのはマーケターの役割にほかなりません。

 

参考文献
エド・ケラー、ブラッド・フェイ(澁谷覚、久保田進彦、須永務 訳)「フェイス・トゥ・フェイス・ブック - クチコミ・マーケティングの効果を最大限に高める秘訣」有斐閣 2016年
ケビン・レーン・ケラー(恩蔵直人 監訳)「戦略的ブランド・マネジメント第3版」東急エージェンシー 2010年
久保田進彦(田中洋 編)「ブランド戦略全書 第3章 ブランド・リレーションシップの戦略」有斐閣 2014年
山本晶「キーパーソン・マーケティング:なぜ、あの人のクチコミは影響力があるのか
」東洋経済新報社 2014年
ロバ―ト・B・チャルディーニ(社会行動研究会 訳)「影響力の武器[第三版]: なぜ、人は動かされるのか」誠信書房 2014年

続きの記事:
ファン度を高める、よなよなエール流「密着プレー」とは【ヤッホーブルーイング 稲垣聡】
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