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企業の投稿が44万いいね! 冷凍餃子の#手間抜き論争が大きく話題化した理由
話題化のモーメントを拡大するため、動画の制作に着手
家事分担の話題は、ジェンダー論にも関わり、非常にセンシティブだ。そのため、「手間抜き」という投稿が話題化した直後は、世の中の反響がネガティブな方向に向かうのではないかという懸念があった。しかし、翌日以降も好意的な声が多く寄せられ、さらにはメディアからの取材依頼が立て続けに寄せられた。
テレビでは、夕方の報道番組で取り上げられたのを皮切りに、他局の番組やワイドショー、特集企画などにも波及していった。
ここまでメディアが注目した背景には、冷凍餃子の一連の投稿が話題になる前に、高齢男性がスーパーの惣菜コーナーで「母親ならポテトサラダくらい作れ」と女性に絡んだというTwitter投稿が話題となり、テレビのワイドショーなどで取り上げられていたという経緯がある。
本田哲也氏は「今回のように狙ったわけではなく、自然な投稿から話題に火が付いたというのは、非常に貴重なモーメントです。これを何らかの形で生かし、味の素冷凍食品が伝えたいメッセージを広げていくことができないかと考えました」と語る。
そこで次の展開として、コンセプトに掲げたのは「手間を可視化すること」だった。世間での話題化の波に乗るにはスピード感が重要だと考える本田氏は、すぐさま企画のブレストに着手。従業員へのインタビューを中心とするドキュメンタリー動画や、餃子にまつわるインフォグラフィックの制作といったアイデアも出したが、「工場で手間をかけているからこそ手間が抜ける」という製造工程を動画でシンプルに見せることが、一番伝わると考えた。
動画制作の社内承認は、最初の打ち合わせから1週間を待たずに下りた。もともと予算化されていない企画だったため、別予算を当てた。そして投稿から約2カ月後の10月5日、味の素冷凍食品はYouTubeの公式チャンネルで、冷凍餃子の製造工程を撮影した動画「おいしい冷凍餃子の作り方~大きな台所篇~」を公開。家庭で料理をする人に代わって、従業員が「手間」をかけて餃子をつくっていることを動画で伝えた。
一連の施策を通し、「手間抜き」という言葉が一般化
動画の再生回数は12月29日時点で90万回以上にも及んだ。Twitterでは、「こんなに工程があるのは知らなかった」「たくさんの手間がかかっている商品だから、私たちは安心して手が抜ける」など、好意的な反応があった。
また、社内の評価も上々で、営業担当者が取引先で紹介したほか、工場の食堂で動画が流され、それが従業員のモチベーションアップにもつながった。
今回の動画制作は、手間抜き論争がユーザーの間で増幅したことがきっかけだ。それゆえ、この動画は「手間抜き論争を応援してくださった一般の方に対する、『企業からのアンサーソング』のような位置づけにしていました」と本田氏。
だからこそ、あまりにもプロモーショナルな内容にしてしまえば、商業的に利用したと思われ、生活者の心が離れてしまうという懸念があった。その一方で、企業として伝えたいことをどのように織り込んでいくのか、限られた時間の中で議論した。
さらに、一連の施策と並行してテレビCMや店頭施策も展開。今まではプロモーションの視点からしか商品訴求を行ってこなかったが、今回初めてプロモーションとPRが組み合わさったことで、週販で過去最大の数字を叩き出した。公式Twitterの“中の人”は次のように振り返る。
「PRがどの程度貢献したかは、正確には掴み切れませんが、冷凍餃子の売上は、8月のTwitter投稿、その後のテレビ露出、10月の動画公開というポイントで跳ね上がりました。世の中の見方が変わったところにスピード感をもって施策を行うことで効果を最大化できるということが、今回の活動で可視化できました」
また、「手間抜き」という言葉も一般化し、メディアなどで広く使われるようになった。本田氏は、「『手間抜き』という言葉が自走し始めたという手応えがあります。それによって、短期的な売上貢献はもちろん、中期的には冷凍餃子を使うことに対して好意的に捉え始めた人が増えたという成果も感じています」と、手応えを語る。