日本の広告費

9年ぶりのマイナス成長「日本の広告費2020」をどう読み解いた? 足立光・菅恭一・田岡敬・西谷大蔵

 電通は2月25日、「日本の広告費2020」を発表した。国内広告市場は、世界的な新型コロナウイルス感染拡大により、インバウンド消費が絶たれ、外出自粛により外食、交通などが大きなダメージを受け6兆1594億円(前年比88.8%)。東日本大震災のあった2011年以来9年ぶりのマイナス成長で、リーマン・ショックの影響を受けた2009年(同88.5%)に次ぐ下げ幅となった。

インターネット広告費は、リモートワーク、キャッシュレス決済など、社会におけるデジタルトランスフォーメーションが加速し、2兆2290億円(前年比105.9%)のプラス成長。一方、プロモーションメディア広告費は、東京オリンピック・パラリンピックをはじめとする各種イベント・展示会、従来型の広告販促キャンペーンの延期・中止に伴い大幅に減少した。今回の結果を、マーケティング領域の4人のプロフェッショナルは、どう読み解いたのか。
 

市場を俯瞰して、最適なメディアの意思決定を

 
足立光氏
(ファミリーマート チーフ・マーケティング・オフィサー)

 昨年、多くの媒体で広告費が前年を大きく割ったのは、先が見えにくい状況が続いたこともあり、大手企業の多くが収益性の確保のために広告費を絞ったことが最大の要因です。インターネット広告費の上昇は、他媒体から予算が動いたというよりも、単純にインターネット絡みの事業者が増えたことが大きな要因だと思います。実際、テレビや新聞などは、コロナ禍でその有効性が改めて証明されました。大手企業の業績が安定すれば、かなり復活すると推測します。

 また昨年顕著だった特徴は、交通広告や屋外広告などがその典型ですが、人の移動に対する規制が刻々と変わる状況で、昨日まで有効だった媒体の効果が突然減少してしまうというように、メディアの効果・効率が日々変化したことです。今年も同様の状況であれば、マーケターは、昨日までのメディア効率は白紙に戻して、常に最新のものを検討しなくてはならない時代になったと思います。

 さらに、インターネット広告が最大の広告媒体になった現在、すでにインターネット・デジタルは「当たり前」のものになりつつあります。マーケティングの意思決定や組織を「デジタルか、そうでないか」で分けるのが、完全に意味をなさなくなったと言えます。「デジタルを特別なものと捉える」時代は、完全に終わったのではないでしょうか。
 

顧客と信頼でつながるデータの時代が本格的に到来

 
菅 恭一
(ベストインクラスプロデューサーズ 代表取締役社長)

 新型コロナウイルス感染拡大による影響を差し引いて考えると、これから注目していきたいのは、2022年の改正個人情報保護法の全面施行を見据えた各媒体の取り組みと、それによる広告費へのインパクトです。

 生活者視点を欠いた、つながりの薄いデータの乱用でマネタイズできる時代は終わり、理念とベネフィットを前提に顧客と信頼でつながるデータの時代が本格的に到来します。その準備の年となる2021年は、以下の2点に注目しています。

 ①サードパーティクッキーに依存してきた広告事業者と利用者(クライアント、エージェンシー)が、自らの在りようをどのように再定義するか。

 ②例えば、雑誌やラジオのように、従来から信頼を前提にバーティカルな顧客(リスナーや読者)とのつながりを持つメディア企業が、資源を再解釈して広告に依存しない新しいビジネスモデルを確立できるか。
 

物販系ECプラットフォーム広告費の伸び率に注目

 
田岡敬氏
(日立グローバルライフソリューションズ CDO)

 2019年集計では、インターネット広告費がテレビメディア広告費を抜いたことが話題になりましたが、2020年集計ではマスコミ四媒体広告費とインターネット広告費がほぼ同額になりました。インターネット広告費にもそろそろ、詳細な内訳がほしいところです。

 特に注目したのは、物販系ECプラットフォーム広告費が伸びていることです。その伸び率と折込広告の下落率から推測すると、2021年は両者の広告費がほぼ同額になります(今回、折込広告は2年前の65%にまで下落しています)。同じ刈り取り型の広告ですが、ECプラットフォーム(Amaozn、楽天など)内に閉じた広告と、対象をほぼ制限していない折込広告が同額になるであろうことに驚きを感じています。
 

そろそろ『日本の広告費』ではなく『日本のマーケティング費』に定義をアップデートすべきタイミングなのでは?

 
西谷大蔵氏 
(住友商事 メディアエンターテイメント事業部 ALPHABOAT 社長 )

 広告費の総額が大幅減の中、「インターネット&デジタル広告費は増加」という読み解きは、いよいよ意味がないと思っています。その最大の理由は、今や「日本の広告費」が「日本のマーケティング費」ではなくなったからです。

 別の言い方をするとDXという世界的潮流をどこまで折り込むべきか。もっと言えば、宣伝部長の領域からCMOの領域へ、そしてCIO、CTO、CDOなどの「Cクラス連携・総動員で顧客中心のデータ利活用マーケティング」の領域に入った時代に、媒体由来の広告費と販促費の一部の積算で日本の広告費の傾向値を語る意義が、いよいよ総体的に揺らいできていると感じているマーケターが増えているからだと考えます。

 上記に加え、より困難なのはプラットフォーマー系の広告費をどう積算するかです。具体的にはGAFA、とりわけGoogle (YouTube含む)で、ご承知の通りこれがいよいよ欄外の数字では済まされない、ここを積算せずに傾向値を語れなくなっている問題をどうするかです。昨年のGoogleの広告売上げはグローバルで約19兆円以上、これを筆頭にFacebookも7兆円以上、Amazon広告が2兆円弱、その他にもTwitter、TikTok、さらに細かく言えば、iTunesなどのApp Store内の検索広告など、実にさまざまな「日本市場含めたデジタル広告費」が欄外として積算されておらず、しかも純粋な広告費とデータマーケティング領域費が境目なく一体となっているのが現状です。

 これらを考慮すると、そろそろ日本の広告費の定義そのものを「日本のマーケティング費用全体」にアップデートする時期ではないでしょうか。これには従来の媒体由来の広告費以外にも、既述のGAFAなどプラットフォーマー系の広告費の推計や、データマーケティング領域の含めた統合的なマーケティング費で市場を語るべきです。

 もちろんそれが簡単ではないことは重々承知した上でですが、しかしそれでも広告「も」含めたマーケティング費全体が、日本でどう推移しているのかを読むことで初めて、世界的な潮流を踏まえた視座と分析ができるのではないかと思っています。

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