マーケティングの現場で起きているデータ分析時に陥りがちな罠 #05
データ分析の「仮説と検証」、罠に陥らない重要な3つのポイント
砂時計型の仮説・検証にするためには「イシュードリブンで仮説を立てる」
では、より砂時計型に近づけ、分析やリサーチをより理想に近づけるためには、どのような点に気をつければ良いでしょうか。
私が個人的に非常に重要視している内容について3点まとめました。
1. [全体を俯瞰しているか?]
- 一歩下がって全体を俯瞰し、どこがイシューなのかの仮説を立てられるようにします。例えば売上の減少があった場合には、その原因がマーケティング力なのか商品力なのか、それとも店頭力なのかなど、なるべく全体をカバーできる形でその要因を把握し比較します。その後、それぞれの要因について階層を作る形で深掘りします。例:店頭力であれば配荷率なのか、価格なのか、プロモーション力なのかなど。
- 重要なのは要因がMECEと呼ばれる、漏れなく被りなく全体を把握できる形にしていること、そして階層化構造を作ることで全体像を容易に把握できるようにすることです。このとき、第1回で話した因果関係や第3回でお話ししたような数理モデルのアプローチを利用することが多くあります。
✧ 例えばP&G時代にはブランドごとに数理モデルを作成しました。具体的には、売上と広告やユーザープリファランス、店頭での配荷率などのKey Business Drivers(KBD)で説明した簡易モデルをつくります。全体像を把握しつつ、毎月の売上のゴールの乖離と、それぞれのKBDのゴールの乖離を調べることで、どの部分がイシューになっているのかを把握し、その根本原因を調べていました。
2. [イシューは戦略の偏りを指摘しているか?]
- イシューは本質的であればあるほど、よりインパクトが出る仮説・検証となります。そのためには、イシューが自社の戦略に関わる結果であるかをチェックするようにしています。
✧ 正しくないイシューの例:競合に比べ店頭プロモーション力が弱い。
✧ 正しいイシューの例:戦略上、来店に力を入れているため、店頭プロモーション力は競合に比べ弱い。
● 正しいイシューのケースであれば、来店に力を入れる戦略が店頭プロモシーションに比べ正しいかどうかを検証することになります。
● ポイントは自社がコントロールできることがイシューであること。上の例の場合、競合がその要因でありコントロールすることができません。
- 戦略とはそもそも「目的を達成するためのリソース配分」であると思っています。そして多くの場合、現状起きている課題は、戦略上何かを決断したことによるリソースの偏りからくる反作用であることが多いです。
- 戦略を理解するためには、経営視点に立ち、自社が持つ戦略とそのコンテキストを理解することが重要であると感じています。そのためにも、自部門を超えた他部門のKPIなどの理解に努めつつ、各部門でどうリソース配分を決断されたのかを理解するようにしています。個人的な感覚ですが、多くの分析者が陥る罠の一つは、この部分を重要視せず、データのみを追いかけることで、理論的には正しいが、アクションにつながらない机上の空論になりがちであることだと思っています。
3. [仮説立ての第一歩は、現状把握していることのリサーチ]
- 多くの場合、マーケットの変化が早いからなどの理由で過去を振り返ることが意外と少ないと感じています。私の経験則から、過去の知見は現在でも使えることが非常に多いです。
例えば、マーケティングファネルはなくなり認知から購買が一気通貫で行われるという話があります。確かにECの台頭により、より衝動的に買うことは多いと思われます。一方で、衝動買い自体は実は1950年代から研究されており、その知見は大方使えます。過去の知見は使えないという判断も、分析の罠のひとつです。
- 同様に、まず何か売上が下がるなどのビジネス上の課題が起こったなら、まずは社内の過去のレポートやデータなどを見て仮説を立てると良いです。その時に大事なことが2つあります。1つ目はファクトと意見を分けること、2つ目は自分で1次データを分析することです。過去のレポートの多くは、書いた人の意図や目的、当時のコンテキストを基に書かれているため、その人の解釈が入っていることが多く、そのままでは誤解につながることが多いです。ファクトを見極め、仮説を立てるために、過去のレポートやデータを使うことが第一歩目の作業となります。
✧ 例えば、Facebook社では他国で行われているリサーチや分析をWorkplaceというビジネス版Facebookのようなシステムで管理しています。そのため、例えばインフルエンサーマーケティングの成功要因・失敗要因を調べる際、そのWorkplaceに接続し情報を検索することで、ほぼリアルタイムで他のマーケットの状況を調べることができます。その結果と日本の現状を比べることで、どのような点で機会があるのかの仮説を立てることができます。
上記を踏まえ、イシュードリブンで仮説を立てることで、具体的に何を検証すれば良いかが具体的に見えてきます。
その後、検証作業をデータ分析やリサーチで行うことで、よりシンプルだがインパクトの大きいイシューが見つかり、砂時計型により近づけることができるようになります。皆さまもぜひ試してみてください。