マーケターズロード 鹿毛康司 #07

鹿毛康司―ひとりの人間として、お客さまと向き合う「ファンと呼ばない」ファンベースドマーケティング

 

ソーシャルの目的は拡散じゃない、絆づくりだ。


 多くの企業でソーシャル担当が生まれてきました。Twitter担当者を置いて、何かつぶやいて「拡散させればいい」という乱暴な話が飛び出します。ちょっと問題だなと思うのは、「ソーシャルという無料の道具が出てきたから、これを使って情報をどんどん出して拡散させよう」と活動をしている場合です。

 昔ながらの「企業がメディアを使って情報を一方的に出す」という考え方の延長なんですよね。タダで情報を広めようという趣旨です。これ、縦のコミュニケーションです。

 会社の偉い人たちは、自分がデジタルに弱いから若い人に任せようと意味もなく「中の人」をつくってきました。本来、組織の戦略に沿ってTwitterを運営するところを、戦略なき発言者として孤独に発信することになります。見てて、ちょっと大変だろうなあと思っています。

 「シャレ」を言ったり、世の中で流行っているものを見つけてきてツイートして「この会社わかっているね」と人を集めたり。リツイートしたら景品が当たるキャンペーンでフォロワー数を増やしたり。担当者はフォロワー数などをKPIにされるから仕方ないのですが、本来の目的はお客さまと企業の関係づくりのはずなのですが、何か少し違うんじゃないかなあと見てきました。
 

エステーの「ファン・クラブド・マーケティング」は「ファン」と呼ばない。


 私のTwitterのフォロワーさんがとうとうエステーに入社し、さらには宣伝部に異動してくるという珍事が起きます。ニックネームを花子と言います。高校生の時からずっと西川貴教さんのファンで、そこでエステーを知り、絆を感じて入社してしまったわけです。

 あるとき、花子に「ファンクラブ」をつくりたいと言ったら、こっぴどく怒られました。「ファンって言葉は大嫌いです。西川さんがファンというのは許せるけれど、なんだか企業が上みたいじゃないですか」と。

 なるほど、と思いました。縦のコミュニケーションは終わったと頭ではわかっていても、ファンという言葉を使ってる時点でまさしく上から目線。縦のコミュニケーションをどこか心の奥でやろうとしていたのかもしれないと、反省させられました。

 上とか下とかではないクラブをつくろうと「エステー特命宣伝部」を発足しました。アジャイルメディア・ネットワークの徳力基彦さんにもサポートしてもらいながらスタートしました。「エステーのCMをネタに、#いとをかし なものを楽しもう」という部活です。





 一瞬にしてエステー社員数を超える会員ができて、徳力さんもびっくりしてました。「ずっと昔から絆づくりやられてたからですね」と笑っていました。

 部員専門のサイトもつくり、それは彼らが描いてくれたイラストで構成されています。新CMが放送される前に、秘密裏に部員にはお知らせするのですが、企業秘密だと理解してくれている彼らは、事前にそのことをネットにバラしたりもしません。

 これってすごいことですよね。Twitterで公開会議と称して、たわいもないネタで遊んだりしています。その公開会議から火がついて新CMのことがTwitterのインプレッション数で1800万に広がったこともあります。

 これをお金で購入するとしたら1億円以上かかると思います。でも、重要なのはそこではなくて、そういう絆ができているということなんですよね。

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