TOP PLAYER INTERVIEW #30
創業112年ピップグループの初代CMOに久保田達之助氏が就任。目指すは、消費者起点のマーケティング・カンパニー
コロナ禍での在宅勤務の広がりはチャンスと思え
――コロナで生じた変化のように、消費者の健康に対するニーズが変わる場合もあると思いますが、商品ラインアップは今後、増えるのでしょうか。
時代の変化に応じた商品を開発、販売していく必要性はあると感じています。新商品の開発計画は、まだ詳しくはお話できませんが、消費者の健康課題に向き合った商品を世に出していくのがピップだと思います。
――新商品の戦略も、すでに考えられていますか。
新商品を開発するときに重要なのが、新しいものをプロモーションしていくことだけでなく、既存商品をさらに育成していくことです。
新商品はテレビCMの予算などを増やし注目を集める必要があり、マーケティングに占める費用はどうしても増えます。一方、既存商品はある程度認知度があり、一定のファンがついているので、認知度を上げるための費用は新商品と比べると少なくて済みます。
新商品のマーケティングに力を入れすぎると、既存商品が手薄になっているケースをよく見かけます。自社の主力商品のマーケティングを疎かにするのは間違えた施策です。どちらも自慢の商品として消費者に届けたい気持ちがあるので、そこのバランスを見てそれぞれに必要な施策と予算を組んでいくことが重要です。
――創業112年の歴史ある御社が、真っ先にテレワークを導入するなど、働き方改革を実践できた理由を教えてください。
消費者の健康を考えている企業が、社員の健康を考慮しないのは矛盾していると思いますし、経営陣も同じ考えでした。
新型コロナウイルスの感染拡大が日々取り沙汰されるなかで、混雑している電車で通勤することや、密集したオフィスで働くことが、健康を脅かすリスク要因になっていると感じました。緊急事態宣言が出て、急ぎ社内の業務を在宅で行えるよう整えて実行したのは、このリスクを低減するためです。もちろん、すべてを在宅勤務に移行するのが難しい職種もありますので、自宅と会社どちらで働くかを社員が選択できるようにしました。創業100年を超える企業で、これだけ動きが速いのは、珍しいことだと私自身も思います。
――このような状況が1年も続くと、「在宅ストレス」が指摘されるようになりました。「THE WELLNESS COMPANY」として、御社が消費者に提供できることはなんだと思いますか。
在宅勤務がある程度広まった現在、どれだけ快適に在宅で仕事をするかに関心が集まっています。これは、当社にとってはチャンスと言えます。
例えば、長時間いすに座っていると、脚の重ダルさを感じやすくなり、肩が凝ります。当社の「スリムウオーク」や「ピップエレキバン」でケアしましょう!、とアピールできるのです。これは既存商品ですぐに実践できたことでした。
マーケターにとって最も重要なのは、現場感覚
――久保田さんは、社内外問わず人材教育、次世代のマーケター育成に力を入れていると伺いました。それはなぜでしょうか。
マーケターにとって最も重要なのは、現場感覚だと認識してもらうためです。机上でデータ分析しているだけでは、消費者の動向を見極めることは難しいです。消費者の動きが見えないと、マーケティングの施策を間違えてしまいます。
今後、データ分析作業は、機械がやってくれる可能性があります。また、データはいろいろな解釈ができるため、質問の仕方によって、得られるデータも異なってきます。
私が大学で学生に教えているのは、感性を鍛えることの重要性です。そして、その感性を鍛えるためには、例えば、電車に乗ったら、乗客を見る。その乗客はどんな仕事をしていて、どんな趣味を持っているかなど、想像力を広げることを習慣にしてもらうのです。大学に到着するまでに見た広告が誰に何を伝えたいのか考えることも、トレーニングのひとつとして実行してもらいます。若いうちに多くを考え感じ、学び取ることが重要なのです。
――久保田さんが他のマーケターにない強みは何でしょうか。
大手企業のマーケターであり、大学教員であり、役員である、という要素を同時に備えていることでしょうか。
私が学生だったら、現役のマーケターから、生々しい話を聞きたいと思います。だから私はそれを実行し、社会に出る前からマーケターの思考を与えたいと思います。概論で終わる授業に比べると、実話を元に学習できるので私の授業は毎年すぐに希望者で埋まってしまうそうです。
また、学生たちと関われることができるのも強みです。若い世代は何を使い情報を集め、どのように発信しているのか、彼らの生の意見を私自身のマーケティングに生かせるからです。
その活動自体が社内でも噂になり、勉強会を開いて欲しいと言われます。それは、部署を問わず、会社と社員自体がマーケティングに興味を持ってくれているという意味だと感じました。もちろん惜しげもなく、持ちうる知識は皆に提供し、実務に生かしてもらいたいと思います。
ピップが「老舗企業」だけではない、「マーケティング先進企業」になるためにも、赤ちゃんからご高齢の方まで消費者の生の声に触れる機会や近づく方法を模索し啓蒙していくつもりです。伝道師の立場でマーケターを目指す人と企業の成長と社会全体の健康を、ピップのCMOという立場を超えて、これからも実現していきたいと思います。
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