音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #28

キャリアに迷ったら、長期的に給料を高くすることを意識してみる【音部で壁打ち】

 

なぜ幼い頃の「好きだったこと」が大切か


 戦略を策定するときに「目的」から考えるのは正統で定石ですが、戦略を構成するもうひとつの要素である「資源」から考えてみることが有効な場合もあります。とくに、運用できる資源の総量がちいさめの個人や、スタートアップなどでは、手持ちの資源から考えるのは有効です。数年前からアカデミアで議論されるようになった「エフェクチュエーション」という考え方は、資源に立脚した起業論であると解釈すると、理解しやすいかもしれません。

 さて、資源とはすなわち、自分が持っているスキル、能力、ネットワークなど「自分のこと」です。なかでも、生来の気質は長期的には大きな影響をもたらすことでしょう。好き嫌いにはいつも明確な理由があるわけではなさそうですが、動機づけや能力の発揮に大きく影響するように見えます。

 サッカー選手のほとんどは、サッカーが大好きではないかと想像します。棋士のほとんども、将棋が大好きではないでしょうか。音楽家も、小説家も、俳優も、それぞれに自分の専門分野を大好きなのではないかと思います。

 自分が大好きだったことに、「生来の強み」や「向いていること」が潜んでいても不思議ではありません。もって生まれた能力を発揮することは、きっと、直感的本能的に楽しく、好きになることなのだろうと考えます。

 いろいろ考えてみたけれど、自分の特性や強みもよくわからないし、とくに好きなものも思いつかないし、将来的にどうしたいのかもわからない、という場合に備えて、私が若い頃に知った暫定的な考え方を示しておきます。

 「キャリアに迷ったら長期的に給料を高くすることを意識してみよ」というものです。先輩に教えてもらったか、何かに書いてあったのか、出処を忘れてしまったこの一文はとても利己的に聞こえますが、実は社会貢献を第一義にしています。

 会社員など雇われのプロフェッナルは、給料からの天引きで税金を払います。つまり給料が高くなれば、税金も自動的に高くなります。1円でも多く稼ぎ、1円でも多く税金を払うのは、すなわち社会のためになるはずです。

 寄付をしたり、ボランティアをしたりするのとは趣が異なりますが、給料から安定的に税金を払うのも社会への立派な貢献です。給与が個人の貢献を正しく反映していて、税金が世の中のために正しく使われているという前提に立てば、この考え方は合理的です。

 もちろん、世の中はそれほど完璧に運営されているわけではありませんから、前提条件が完全に満たされることはないかもしれません。とはいえ、この前提を完全に否定するものでもないだろうと期待します。

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