マーケターズロード 鹿毛康司 #08

鹿毛康司氏が明かす、マーケティングで陥りがちな2つの罠

前回の記事:
鹿毛康司―ひとりの人間として、お客さまと向き合う「ファンと呼ばない」ファンベースドマーケティング
 2020年にエステーから独立し、かげこうじ事務所を立ち上げた鹿毛康司氏。昨年、今まで語られてこなかったマーケティング思考を初めてアジェンダノートで6回に渡って公開してもらった(マーケターズロード 鹿毛康司)。そして、その記事は多くのマーケターの注目を浴びた。独立して1年経った今、さらに突っ込んで鹿毛氏の思考に迫った企画の第2回をお届けする(前回は、こちら)。
 

マーケティングには陥りがちな罠がある


鹿毛康司(かげ・こうじ)
かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター
「お客様の心に向き合う」をテーマにマーケターとして活動中。同時にクリエイティブディレクターとしてCM監督、プランニング、コピー、作詞作曲を手掛ける。 雪印乳業を経て、2003年にエステー入社。同社を日本有数のコミュニケーション力のある企業に導く。同社執行役を経て、2020年に独立、かげこうじ事務所を設立。代表作は消臭力CM。11年震災直後の「ミゲルと西川貴教の消臭力CM」で一大社会現象を起こす。早稲田大学商学部卒、ドレクセル大学MBA。 現在、グロービス経営大学院 教授、エステー コミュニケーションアドバイザー、日経クロストレンド アドバイザリーボードメンバー/Ad-tech 東京ボードメンバー。受賞歴:マーケターオブザイヤー、WEB人貢献賞、ACCゴールド、フジサンケイ広告大賞ほか。著書:『「心」が分かればモノは売れる』(日経BP)『愛されるアイデアのつくり方』(WAVE出版)ほか

 先日、高校の同級生でブラスバンド部でフルートを吹いていたマドンナから仕事の依頼がありました。彼女は現在、福岡県の小さな町の養鶏場の女社長として頑張っています。

 「鹿毛くん、あんた聞くところによると、CMづくりだけでなくて、商品づくりとかホームページづくりだとかも、うまいらしいね。ちょっと手伝ってくれんかね」というのです。聞くところによるとマーケティング手法を少し取り入れて、もっと事業を拡大したいと考えているものの、突破口が見つからないというのです。

 「よかよか。あのマドンナに頼まれるとは幸せたい」とふたつ返事で、ボランティアで引き受けることにしました。そういうわけで、新商品のネーミング、パッケージからホームページのあり方などを手伝い始めました。

 家業をついでいるけれど、なかなか売上が上がらないだとか、面白い商品をネットで販売してもうまくいかないだとか、皆さん本当に困ってらっしゃいます。

 本やセミナーでマーケティングというものを知り、研究してなんとか自社に応用できないかと、もがいていらっしゃいますが、少し気になることがあります。それは過剰に「マーケティング手法」だけに頼りすぎていないかということです。

 私はマーケティングには、2つの罠があると思っています。

 ひとつ目の罠は、ついつい道具の使い方だけに目がいってしまうこと。予算がないからTwitterでなんとか拡散したい、Instagramで何か話題をつくりたい、Webサイトにお客さまを流入させるためにSEO対策を打つ、ネット広告を出すなど、手法だけで解決できると過度な期待をされていることです。
 
鹿毛氏の最新刊『「心」が分かればモノが売れる 』
が5月20日より好評発売中。

 2つ目の罠は、既存のマーケティング手法を使えば、お客さまのことを全て理解できてうまくいくと信用しきってしまうことです。現実にはマーケティングは万能ではありません。限界があります。

 世の中で紹介されている主なマーケティング手法には、例えばお客さまへのインタビューやアンケート調査などがあります。また、行動分析やネットでのログ分析など手法は発展してきています。そういう手法も便利ではあるのですが、あくまで過去の延長の答えしか解明できません。 

 最近では、例えば、カスタマージャニーなどで、感情を入れていこうという動きが始まったところです。それでも感情レベルです。

 その下にある感情を生み出す、大元の「心」までは解明できない状況です。それを解明しようとデプスインタビューや観察手法なども存在しますが、あくまで考える切っ掛けであり、その手順を踏めば「心」が見えるというものではありません。そこには、マーケター自身の見抜く力が必要です。

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