マーケターズロード 鹿毛康司 #08

鹿毛康司氏が明かす、マーケティングで陥りがちな2つの罠

 

糸井重里さんは自分の心の中にいる大衆と会話しているらしい

 
「こころ」というものなどない。

そういう考え方があってもいいと思うけれど、

「こころ」というものはある、としておかないと、

なんにも見えなくなってしまうんだよ。

だって、ほとんどの人間が「こころ」で動いているからさ。

「こころってものが。あるんだ」と、

まずそこだけは共通の理解にしたい。

 これは、糸井重里さんの著書『「思えば、孤独は美しい。』」(Hobonichi Books )の一節です。

 私の尊敬する糸井重里さんは、まさしくインサイトを導き出して、そこにポンと魔法のような言葉を投げかけて人を動かしてしまう名人です。

 日経クロストレンドで対談をさせてもらった時に、どうやって自分と会話をするのかを伺いました。さあて会話しようとはしていない、いつでも考えているようなことをおっしゃっていました。

 そして糸井さんはそのことを「自分の中の大衆と会話する」と表現されました。いとも簡単に言葉にしていただきましたが、考えて見ると、たとえば母を失った心の穴は私の心の中にあるけれど、それが何人の人がそうなのかをアンケートで聞くような種類のものではありません。強弱は人によるだろうけれど、それは人間誰しも心の中にあるもので、私の心の中にも大衆がいるということです。
 

合理的な人でさえ、心理で動いていた。


 人は経済合理性では動いていないと言われます。しかしそれでも信じてくれない人がいます。

 「私は、合理的な行動しかとっていません。買い物するときもちゃんと本当に必要なモノなのか、価格は妥当かを調べ尽くしています。心で行動していません」という女性に会いました。

 私は彼女に「試しに1週間でいいから合理的でない買い物をしてみたらどうだろう」と勧めてみました。しばらくして彼女は「あまり考えずに好きなように買い物してみました。それが、とっても楽しかったんです」と恥ずかしそうに告白してきました。「合理的に行動しないと不安」というインサイトがあったことに彼女は自分で気づくわけです。これこそがインサイトです。

 マーケティング手法を否定しているのではないんですよね。むしろ、きちんと方向性を間違わないためにはマーケティング調査もやった方が良いと思います。ただ、そこでわかることは「行動」「感情」「意識」です。それは本人も気がついていることだから調査で見ることができます。

 インサイトは本人も気がついていない心の奥にあるものです。聞いても答えられません。インサイトを見つけるためのデプスインタビューをやろうが行動観察をしようが、本人が「私のインサイトはぺけぺけです」と明確に言ってくれるものではありません。だからこそマーケターが自分の心を使って、お客さまの心の中にあるインサイトを想像してみるという力が必要になってくるのです。

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