マーケターズロード 鹿毛康司 #09
みんな「ブランド」という言葉を、バラバラな意味で使っていないかな ―鹿毛康司
2021/06/03
ブランドの本質を教えてくれたDoveのCM
ちょっと小難しい話になりますが、私にとってショッキングな体験を話させてください。
2007年に私はカンヌ広告祭に参加しました。その時のフィルム部門のグランプリが世界のエポックメイキングと言われる有名な動画でした。
ユニリーバの洗顔ブランドDoveの映像でした。映像は次のようなものです。「女性が顔と髪をメイクしていく動画を早送りでずっと捉えています。その顔がコンピューターで整形されていきそれが街のポスターになっている」という動画です。
最後にはテロップが流れます。
「No wonder our perception of beauty is distorted. Take part in the Dove Real Beauty Workshop for Girls. (私たちの美意識が歪められたとしても、驚きではありません。「Dove」の本当の美しさを求めるワークショップに参加してください)」
参考:「Dove Evolution」
衝撃を受けました。洗顔カテゴリーである生活雑貨商品のCMは、普通は商品特徴を訴えるCMがほとんどでした。その中で商品を一切説明せず、Doveの世界観を特徴ある動画で表しているわけですが、実はそんな単純なものではなかったのです。
美しい女性が「美人」ではなく「美しく生きる女性」こそがDoveが提唱した美だというのです。
会場にいる周りの女性に感想を求めたら、妙にうなづいています。「私も美というものにコンプレックスを持っていたけれど、そうなんだ、もっと自由に生きていいんだと。それが美なんだね」と明るい顔をしているのです。
本人もそんなことは意識していたわけではないのですが、しかし、確実に彼女の心の中には、どこかネガティブな何かがあって、それをこの動画は突いたのです。そして彼女はDoveにどこかLoveな感情を抱いているのです。これがインサイトを突くという事例かと、その凄さを体験した出来事でした。