音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #29

音部さんが面接担当者として「マーケティングの素養」を見抜くためにしていた質問【音部で壁打ち】

 

「自己PR」はベネフィットの訴求である


 たとえば、紙おむつのコミュニケーションを想像してみましょう。

 「赤ちゃんの成長は、子育ての醍醐味のひとつですね。すべての瞬間を快適にして、笑顔の思い出を残したいものです」とした場合には、「赤ちゃんの成長を楽しみにしている」という普遍的なニーズを「楽しい笑顔の思い出を残したい」と解釈し直しています。

 あるいは普遍的な部分は同じでも、次のような解釈も可能です。「赤ちゃんの成長は子育ての醍醐味のひとつですね。そして、赤ちゃんの成長に大事なのは、愛情や食事に加えて、きちんと眠ることなんです」。この場合は、ニーズを「きちんと眠ることが大事」と解釈し直しています。

 普遍的な消費者ニーズは同じでも、異なる解釈が可能です。さきほどの志望動機は、この「ニーズの解釈し直し」と似ています。

 そして「志望動機」がニーズの解釈であるとき、「自己PR」はベネフィットの訴求です。ニーズに対応する解決策がベネフィットですから、志望動機と自己PRを一貫させやすくなります。

 ブランドマネジメントでは、「機能」と「ベネフィット」を明確に分けて理解する必要があります。もし機能とベネフィットの区別が難しければ、主語に着目しましょう。主語がブランドや製品なら、それはきっと機能です。「モレない、ムレない」の主語は紙おむつなので、機能だと分かります。そうした機能があることで、「消費者にとって」何がいいのか、消費者を主語にして表したのがベネフィットです。

 たとえば「モレない、ムレない」という「機能」を持つ紙おむつがあるとき、そのベネフィットは「(モレずに、ムレないので)お母さんも赤ちゃんも快適に遊べて、楽しい思い出がつくれる」といったものから、「(モレずに、ムレないので)赤ちゃんはぐっすり眠れて、脳の発育を促す」といったものまで、いろいろ考えられます。さきほど、オムツのニーズが「思い出」から「赤ちゃんの成長」まで多様な解釈が可能だったことと一貫しています。同じ機能でも多様なベネフィットが訴求可能なので、解釈されたニーズとうまく呼応していると効果的です。

 さて、自己PRが「ベネフィット」であるということは、「会社にとって何がいいのか」を示す必要があります。「自分がどういう人間か」というのは、いわば「機能」です。職歴や学生時代にがんばってきたことは、ベネフィットというよりも「製品機能の説明」に近いものです。多くの自己PRが、「機能」や「製品説明の逸話」に終止しがちで、なかなか「ベネフィット」に言及していないのだとすると、それは少し残念です。

 「私は海外経験が長いので3カ国語を話せます」とか「寮生活が長かったので、協調性があります」といった能力や逸話を話した上で、「だから、異なる立場や主張の間をとりもつことが得意です」といったベネフィットを示すことができれば、さきほど志望動機を通して解釈されたニーズと明確に一致します。

 こうしたストーリー全体を構成できれば、きっと話しやすいし、聞く側も腑に落ちやすいでしょう。「志望動機」で会社のニーズを解釈し、自身の経験や特技を踏まえつつ、「自己PR」でそのニーズを解決するベネフィットを提示できる人物であれば、上手にマーケティングができるだろうと思われます。

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