本田哲也、藤原義昭 特別対談 #02
「ナラティブでなければ、顧客からも従業員からも選ばれない」 本田哲也、藤原義昭 特別対談
戦略PRの提唱者として知られるPRストラテジストの本田哲也氏の著書『ナラティブカンパニー 企業を変革する「物語」の力』が5月14日に出版され、マーケティング関係者の間でも話題になっています。
日本を代表するダイレクトマーケティングのカンファレンス「ダイレクトアジェンダ」の昨年のテーマも「ナラティブ」だったことから7月の開催を前に、カウンシルメンバーである藤原義昭氏と本田氏との対談が実現。「ナラティブ」とは何か、なぜマーケティングにおいて重要になるのか、どうすれば企業に浸透するのか、など熱い議論を交わしました(前編は、こちら)。
ナラティブな企業が従業員にも選ばれる時代
――(前編は、こちら)お二人の話を通して、ナラティブは企業として考えるものであり、一部の部門だけが取り組めばいいものではないことが分かりました。本田 はい、特にナラティブという物語構造の中には、従業員や取引先も含まれています。ナラティブについて考えるうえで、「エンプロイー(従業員)エンゲージメント」は欠かせません。従業員が物語の一員として、「お客さまと繋がっていることが最高の幸せだ」と思える環境がすごく大事なんです。
ひとつ意外な驚きとして、人事担当の方にも今回の書籍が読まれているようです。これは想定していなかった出来事でしたが、特にベンチャー企業がメガベンチャーの規模になるときなどに、どう従業員のエンゲージメントを高めるかは重要な要素です。
ミレニアル世代やZ世代は企業の知名度よりも、「何を目指しているか」で働く場所を選んでいます。ナラティブが力を持ち始めているからこそ、採用にも関係してくると感じています。
藤原 前職では、アルバイト採用に難航していました。それでアルバイト採用がスムーズにできている企業を人材会社の方に聞いたところ、「スターバックスは何もしなくても人が集まる」と言われました。オープニングスタッフを募集すると、大量の応募があるそうです。
本田 スターバックスには、ナラティブが根付いているからでしょうね。
藤原 はい、お客さまと接している従業員が権限を持ち、飲み物を入れるカップに書くメッセージも自分の判断でできますよね。そういった余白をうまく従業員に渡しているところが、目の前のお客さまを喜ばせることにつながるのだと思いました。
本田 その余白が従業員とお客さまとの良い接点になるんです。「メッセージを書いてもらって、朝からいい気分だな」と感じて、それを周りの人に語ったら、それはスターバックスではなく、お客さま自身のナラティブになっていきます。企業の物語と、顧客の物語が融合していますよね。
藤原 そうですね。生産効率を高めるために、もちろんマニュアル化も大切ですが、やり過ぎているケースが多いような気がします。
究極的に言えば、顧客が増える施策をひとつに絞ってしまった方がいいんです。すでにD2C企業はそれを進めていて、店舗数を増やすのではなく、インターネットというひとつの窓口で顧客を増やすことで経営効率を高めながら、顧客体験の向上を追求していますよね。
本田 経済合理性がありますよね。お客さまが一緒に物語をつくる仲間であって、それが最も際立っているモデルがD2Cだと思っています。
会社が従業員に命令するのではなく、なぜそれをするのかという文脈を丁寧に共有することで、従業員が自主的に動いて活躍してもらうこと。その物語をマネージするのが、今後のマーケターや経営者の役割になると思います。
藤原 そうですね。お話しながら、面白い世の中になってきたと思いました。
本田 はい、特にファッション業界は、ポテンシャルだらけかもしれません。コロナ禍で店舗閉鎖や売上低迷など大変な状況に陥りましたが、もともとの企業としての在り方がナラティブなのではないでしょうか。原点回帰していくことで、業界を再構築できる可能性が大きいと思うんです。