企業インタビュー #01前編
話題の企画を連発、ブラックサンダーで「遊び心」と「幸せ」を届ける。有楽製菓 河合辰信
1955年から3代続く「日本一ワクワクする菓子屋」有楽製菓は、チョコレート菓子のブラックサンダーで有名な企業です。「お菓子は嗜好品なのでなくてもいいのだが、あったら暮らしがもっと豊かになるし、旨い!と言わせるのが目標」と、代表取締役社長の河合辰信氏は語ります。そんなお菓子つくりに魂を込める河合氏に、体験したことがない喜びや楽しさ、驚きを生み出し続けるコミュニケーション方法や、パッケージなどのアイデア、有楽製菓のこれからについて聞きました。
お菓子はコミュニケーションツール
――6月21日、また面白いネーミングのブラックサンダーを発売されましたね。
はい、ブラックサンダーの新商品として「ブラックサンデー」を発売しました。実は、マーケターの鹿毛康司さん(かげこうじ事務所)がブラックサンダーをブラック“サンデー”と言い間違えたところからアイデアが生まれました。鹿毛さんとは昨年のネプラスユーでも登壇し意気投合しているんです。鹿毛さんの言い間違えの話から、メーカーが言い間違えたら面白いよねという話になって、だったら商品にしても面白そうだと考えました。会社に帰ってそのアイデアを商品担当に話を持ちかけたところ「それは面白い」と、すぐに商品化を検討する流れになりました。
また別の機会に鹿毛さんから「有楽製菓とエステーは共通点がある」と言われたのですが、最初は何のことだか分かりませんでした。その答えは、「いい大人が本気でふざけたことをできる会社」だそうです。
もちろん菓子づくりは真剣に取り組んでいますが、商品のネーミングやプロモーションの企画などは自分たちが楽しみながら考えています。なので、鹿毛さんからそう言われて、「なるほど」と自分でも納得しました。
――外部からアイデアをよく取り入れられているんですね。
はい、社内だけでなく、社外から出てきたアイデアでも「これは面白い」と思ったものは、実現可能であれば、すぐに実行に向けてマーケティング部とアイデアを練ります。お菓子のアイデアであれば、誰がどんなシチュエーションで食べるのか顧客視点で考えて、価値があると感じれば世に出します。プロモーション企画も同様ですね。
身近なケースでいうと、昨年9月、足立光氏(ファミリーマートCMO)に招かれて、彼が主宰するマーケティングサロン「無双塾」にゲスト登壇しました。その際に、参加者の皆さんからブラックサンダーがさらに売れるアイデアを募ったんですが、私が思い付かないようなアイディアがどんどん出てきました。
特に印象的だったのが、「3のつく日はブラックサンダーの日」というアイデアでした。大きく投資して何か始めるわけではなく、いまある商品とリソースでできるので、今年の3月に実施してみました。
3月はホワイトデーが終わり、春の新作が発売されるまでの空き期間なので、チョコレート業界は販売量が落ち込む時期です。毎年3月にこの企画を繰り返していたら、3月になればブラックサンダーを思い出してくれる、新たな売上アップのチャンスになるのではと思い、来年以降も続けてみようと思っています。
――新たな企画といえば、今年のバレンタインは衝撃的でした。チョコレートをメインに販売するのではなく「青春時代を思い出せる下駄箱」や「人間用特大リボン」など、SNSでも話題になりました。
2021年は「バレンタインをもっと自由に」というコンセプトで、子供の頃に感じていたバレンタインのワクワクを思い出してもらおうと考えました。でも普通のバレンタインでは面白くないので、「それもありでしょ?」をテーマに、自由なバレンタインにまつわる品々を販売しました。SNSでの拡散だけでなくYouTuberにも取り上げられるなど想定以上の反響で、物によっては数分で在庫がなくなるほどでした。
――ブラックサンダーはコミュニケーションツールと言われていますが、河合社長もそれを感じられますか?
ブラックサンダーは、2ちゃんねるやmixi、個人ブログが流行っていた頃から、話題にしてもらっていました。UGCという言葉ができる前から、クチコミで少しずつ名前が広がるブランドだったのです。
2017年に大幅リニューアルしてからは、「お菓子」としてのブラックサンダーを中心とした考え方から、「ブランドとしてのブラックサンダー」をテーマに活動を行うようにしました。それにより、動画やイベントなど幅広い活動を行うことができ、これまで以上に「遊び心をもったすべての人たち」に親しんでいただけるようになりました。
クチコミがどれだけ売上に直結しているかは、目に見えにくい部分もあります。でも、数字以前にブラックサンダーの良さをお客様が拡散し、それとともに成長するブランドだと思っているので、戦略はSNSやクチコミなどで広まることを前提に練っています。クチコミの力がないと、現在のブランド力は持てていなかったと思います。