企業インタビュー #01前編

話題の企画を連発、ブラックサンダーで「遊び心」と「幸せ」を届ける。有楽製菓 河合辰信

 

すべての人を笑顔にするブランドとして


――企業努力と顧客の支えで成り立つブランドだということが理解できましたが、いま御社が一番力を入れていることはなんでしょうか?

 もちろん既存商品の販売数をさらに伸ばすこと、そして新商品を次々と世に出すことは基本ですが、いま一番取り組まなければいけないのは、チョコレート菓子の原料の問題なんです。

 有楽製菓の会長である父がNGO団体のACE(エース)で話を聞く機会があり、そこでカカオ農家の現状を知りショックを受けて帰宅した日がありました。カカオ原産国のガーナなどでは、子どもが学校に行けずカカオ農園で一日中働いていたり、将来の夢も描けずにいたりするそうです。とても辛い思いをしたと私に話してくれました。

 チョコレートを使ったお菓子で世の中にワクワクを届け、少しでも幸せを増やしたいと思っている企業が、お菓子の原料であるカカオを生産している農家の子どもたちの笑顔を搾取していたことを知って、私も心が痛む思いでした。

 誰かの笑顔を奪い、他の誰かの笑顔をつくることはあってはいけない。カカオの生産現場で児童労働が減少する仕組みや環境を、我々がつくらなければいけないと感じたのです。そして、3年前に立ち上げたのが、カカオ農家の児童労働を無くす取り組み「スマイルカカオプロジェクト」です。
 


 チョコレート業界ではある程度知名度はあるものの、販売量は大手メーカーに比べると圧倒的に少なく、我々が行動を起こしただけでは大きな変化が起こせないと思っていました。有楽製菓が使っているカカオだけを児童労働のないものに変えたところで量は少なく、それは自己満足でしかない、意味がないのではと葛藤しました。

 ただ、ブラックサンダーは国内でも認知されているチョコレート菓子であり、国内のチョコレート原料メーカーとはそ れなりのつながりと取扱量がありました。児童労働のないチョコレートに変えたいという思いを原料メーカーさんに話したところ、快く協力していただけました。

 日本のチョコレート業界の常識を変える、「児童労働のないカカオを使ったチョコレートが当たり前」だという空気を、ブラックサンダーのブランドを使って推し進めていこうと決意したタイミングでした。

――現状25%が児童労働のないカカオに変わっているようですね。100%を目指されているのでしょうか?

 将来的にはそうしたい思いはありますが、綺麗事だけじゃ済まないことも多くあるのです。児童労働のないカカオだけ仕入れてチョコレートを作ること自体は可能です。でも、味が変わったり、価格が変わったりする懸念があります。

 それは顧客側のメリットを損なうことになるので、どのスピード感でどこまで進めるべきかバランスの取り方がとても難しいと感じていました。「カカオを変えるので、味が悪くなっても、価格が上がっても許してください」とは、簡単に顧客に言えません。お菓子で世の中にワクワクを届ける企業の本来の姿ではないからです。

 味を変えず、スマイルカカオプロジェクトも遂行する方法はないかを模索し、まずは自分たちで少しずつできる方法を考え、2025年には少なくともサスティナブルなカカオ原料に変えていく目標を立てました。

――簡単な道ではないですよね?

 そうですね。ただ、我々がこの宣言をしたことで、大手メーカーさんも後追いで児童労働問題に目をむけ、取り組みに賛同してくれました。スタート段階で業界に少しでも影響を与えられた、それだけでも価値はあると思います。

後編に続く
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