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日本一ワクワクする菓子屋がつくる「ブラックサンダー」、全社売上4倍増の裏側、有楽製菓 河合辰信
ブラックサンダーの看板を背負うまでに
――SDGsにも取り組まれ子どもの笑顔を増やそうとされていますが、お菓子などで人を幸せにするのは小さな頃からの夢だったのでしょうか?
私は河合家の次男でしたので、有楽製菓は兄が継ぐものだと思って、自分は好きな道を進んでいました。そのため大学院を卒業した2007年に、外資のIT関連会社に就職しました。その時、有楽製菓への就職はまったく考えていませんでした。
しかし、その年の5月に兄が亡くなり、そこではじめて自分が会社を継がなければいけないかもしれないと思うようになりました。そこから有楽製菓に入社するまでの3年間で、自分の気持ちを整理していきました。
その3年の間にブラックサンダーは一気に全国的に知られる存在になり、有楽製菓の業績が急成長していきました。知名度が一気に上がったのは、2008年の北京五輪で内村航平選手がブラックサンダーを好んで食べていると語り、話題になったことです。
急成長によって業務が大変な中で息子をなくした父は、心身共に本当に大変だったと思います。そうした背景もあって、IT業界に未練を残さず、家業を継ぐ決意ができました。
――家業であれ、他業種から転職して社長に就任されることを、周囲はすんなり受け入れてくれましたか?
入社してすぐは、「社長の息子がやってきた」という空気感はありました。だからといって何か軋轢が生じた訳ではなく、皆がフラットに受け入れてくれました。
2010年に有楽製菓に入社し、2018年に社長になるまで8年弱、特にマーケティングに注力しました。そこでそれなりに結果を残していたので、2018年に社長になることについては社内から反対意見は生じなかったのだと思います。
私の父はずっと「65歳で引退する」と宣言していました。最初は冗談だと思っていたのですが、社内外でずっと言い続けているので、「これは本気だ!あと3年しかない」と焦って、自分に足りないものを補うために経営大学院にも入学しました。と言っても、社長に就任したのは、卒業の数ヶ月前でしたが。
――マーケティング部を立ち上げて結果を残されたということですが、実際にどのようなことをやられたのでしょうか?
実は、マーケティング部を立ち上げると言い出したのは父でした。以前は、外部講師を招いて、社内でマーケティングの勉強会を開催していたのですが、父が「これからはマーケティングの専門部署が必要だ」と言い出して、私ともうひとりのメンバーが選ばれました。当時は、マーケティングの知識がほとんどなかったので、講師を勤めてもらっていた外部の方を顧問に迎えてマーケティング部はスタートしたのです。
当時、ブラックサンダーは外部要因で売れていたため、まずこれを自社発信で売れるようにしなくてはならないと考えました。そこで、ブラックサンダーがなぜ好まれ、売れているのかを徹底的に分析し、理解することから始めました。
マーケティング部ができてしばらく経った頃に、父から「マーケティング部には新しい商品をつくって欲しい。そのために立ち上げた」と言われました。有楽製菓は中小企業です。ユニークな商品を開発しては発売することを繰り返してきました。新しいものをつくって、売ることはではできていたのですが、長く商品を育てる力がなかったのです。商品はいつか売れなくなるのだから、古い商品は早めに見切って次の新しい商品をつくる、というのが父の鉄則になっていたのです。
だから父は、ブラックサンダーももうすぐ売れなくなる、今からブラックサンダーを超える新商品をマーケティング部でつくらないとこれ以上は成長できない、と強く思っていたようでした。一方私は、ブラックサンダーはまだまだ売れると考えており、意見がぶつかることも少なくありませんでした。
ブラックサンダーの成長余地を示すためにもブランド強化に取り組み、結果としてブラックサンダーシリーズの出荷本数を伸ばし続けることができました(下図)。
※ブラックサンダーと同形状の商品(大袋品除く、観光みやげ含む)の合計
――いまはブラックサンダーがメインですが、お父さまのおっしゃるように、新商品を展開していこうという考えは残っていますか?いまはブラックサンダー一筋でしょうか?
ブラックサンダーをさらに強くすることが重要だと考えていますが、もちろん新商品の検討もしています。過去10年で何度か新商品をテスト販売したことはありますが、うまくヒットせず、世に残せていないのが実情です。ただ、これからも新商品開発への挑戦は続けていきたいと思います。
それは、大きく路線を変えるものではなく、お菓子という嗜好品の分野で戦っていきたい思いは変わりません。経営理念にも「夢のある安くておいしいお菓子を創造する企業を目指します」とうたっています。
――有楽製菓さんの他社にない強みはなんでしょう?
私たちの強みは、チョコレートの製造機械と、クッキーやビスケットの製造機械を自社で持っていることです。それは中小企業では比較的珍しいことだと思います。有楽製菓は、会社の規模が小さかった頃から、社内で製造しているので、技術的な強みがあります。
自社で開発段階から色々なチャレンジができることは大きなメリットで、それを生かしてこれからもずっとチョコレートと焼き菓子の組み合わせにこだわりを持ってつくり続けていきたいです。