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イノベーション×コミュニケーション #02

閑古鳥の泣く、地方・温泉宿の復活策をトップマーケターに、勝手に考えてもらった【富永朋信】

前回の記事:
広告コミュニケーションは、やはり恋愛に例えると分かりやすい

筋湯温泉の「打たせ湯」に感動

 皆さん、こんにちは、富永朋信です。今回は、宿泊施設を事例に「地方のビジネス」について、マーケティング視点で考察してみたいと思います。

 先週末、私は大分県「筋湯(すじゆ)温泉」へ行ってきました。ドライブ観光がてら、打たせ湯がウリの公衆浴場で一風呂浴びに行ったのですが、これが予想以上のインパクトでした。
 
 一般的に「打たせ湯」というと、東京近郊にあるスーパー銭湯とか温泉施設にある、天井付近から降ってくるお湯を肩や腰に当てる施設を想起しますよね。
 
 しかし、こちらのページをご覧頂ければ分かるように、筋湯(すじゆ)の打たせ湯は似て非なるものでした。
 
http://www.sujiyu-onsen.com/hotspring/
 大人の両肩のピッチに合わせた竹筒二本の打たせ湯が、湯舟に並行した形で6組ほどあり、そこから勢いよく温泉が流れてきます。
 
 なんと、それは全て硫黄の香りかぐわしい源泉掛け流し。しかも入浴料金は、たったの300円。土曜日の午後なのに客は誰もいず、男湯は同行者と筆者の貸し切り状態。思わずテンションも上がります。
 
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 改めて周りを見てみると、筋湯には同様の公共温泉が沢山あり、また温泉宿も15~20軒くらいはありそうです。

 しかしながら、重ねて言いますが、土曜日の午後にもかかわらず、ほとんど誰ともすれちがわず、温泉宿の玄関にある「●●様 歓迎」という看板にも殆ど何も書いてありませんでした。
 
 福岡在住で九州に詳しい同行者に聞くと、同地区の温泉は湯布院と黒川温泉が圧倒的メジャーになり、いわば2人勝ちしている状態との由。一日だけの観察で断言することはできませんが、まぁ閑古鳥が鳴いている状況といって良いのではないか、と感じました。

 では、筋湯温泉は、どうすれば良いでしょうか。マーケティング視点から考えていきます。
 

カタログの中から選んでもらえるか

 一般的に旅館・ホテルの集客施策というと、こちらの3点が挙げられます。
  • JTB、エクスペディアなど旅行代理店との関係強化
  • 自社Webサイトからの集客強化
  • MICEの強化

※MICEとは、「Meeting/Incentive trip/Convention/Exhibition」の頭文字をとったもので、企業が宿泊施設を利用する形態を一言にまとめた造語です。要は、企業向けの施設利用サービスを開発し、そのチャネルを経由して売っていくということです。

 さて筋湯温泉の宿泊施設のマーケティング担当者が、これらの施策を始めたら、“閑古鳥”退治ができるでしょうか。

 たしかに、これら3つの施策の実行で、筋湯温泉が顧客の前に選択肢のひとつとして現れそうです。旅行代理店とコミュニケーションし、彼らからのアドバイスをきちんと受け入れたりすれば、彼らのカタログに載れるでしょうし、リスティングやリターゲティング広告を打てば、旅行に興味がある消費者の眼前に並ぶことはできます。
 
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 一方で、私の脳裏には筋湯温泉への道中、同行者と交わした会話が蘇ります。
 
 打たせ湯と聞いて感じた、軽い失望のような気持ち。「打たせ湯だったら、別に大分まで来なくても経験できるけど」、そんなことを言ったら同行者には悪いので口をつぐんだこと。つまり、彼が選択肢として私に提案してくれた筋湯温泉は、私には魅力的なものには見えず、彼が半ば強引に選んでいなければ、私はあの素晴らしい“真の打たせ湯”を経験できなかったのです。

 私が自分で決めていれば、筋湯温泉は選んでいなかった。
 
 そうすると、これらの施策を行うに当たり、温泉・旅館施設はひとつ自問自答をする必要がありそうです。
 
 「うちの旅館は、カタログの中から選んでもらえるだろうか」

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