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イノベーション×コミュニケーション #02

閑古鳥の泣く、地方・温泉宿の復活策をトップマーケターに、勝手に考えてもらった【富永朋信】

黒川温泉のサクセスストーリーに学ぶUSP

 九州の圧倒的メジャーの一角、黒川温泉には、有名なサクセスストーリーがあります。随所でケースにもなっているのでご存知の方も多いと思うのですが、簡単にサマリーするとこのようになります。
 

黒川温泉のサクセスストーリー

  • 一軒の旅館がまず圧倒的な成功をおさめる。
  • それは主人がノミ一本で掘り抜いた本格露天風呂によるものであった。
  • 他の旅館が彼に教えを乞い、同様の施策を開始。主人は「自然の雰囲気」をテーマとし、彼の指導により田舎情緒のある露天風呂を持つ旅館が増えた。
  • これにより、自然に溢れる露天風呂が黒川温泉全体の特徴となりつつあった。
  • そんな中、施設的な制約により露天風呂を造れない宿もあった。
  • そこで1000円で全ての旅館の温泉に入れる入湯手形を開始。黒川温泉の客であれば誰でも露天風呂を楽しめるようになった。
  • 「街全体が一つの宿、通りは廊下、旅館は客室」が黒川温泉のキャッチフレーズとなり、地域全体の自然感を増すための雑木林植林、看板の撤去などが行われた。
  • これにより黒川温泉には独自の情緒が生まれ、それが口コミを呼び、現在の繁栄を呼んだ。

 ひとつの旅館の強みが、地域全体の強みへと昇華していった様子が見て取れます。
 
 ここに、先ほどの自問自答への回答があります。
 
  • 筋湯温泉ならではの「独自の強み」は何か?
  • それがなければ、カタログに載るところ止まりになってしまうのではないか、ということ。マーケティング用語で言うところのUSP(Unique Selling Proposition)の確立です。

 独自の強みをつくることなく、チャネル系・集客系の施策ばかりしても効果は限定的だ、と言うのは、マーケターであれば自明のこと。もっと言えば、なまじ露出が増えたことで少しばかり客数が伸び、その再現を狙って、効率が悪い施策を大量に実施する結果にならないとも言えません。
 
 筋湯温泉の場合、ひとつの旅館で考えるのか、全体で考えるのかにもよりますが、やはり打たせ湯をどう打ち立てていくかがポイントになると思います。
 
 「あなたが知っている打たせ湯は、本当の打たせ湯ではない」
 「筋湯は打たせ湯にあらず、打たせ源泉掛け流し」
 
 といったことを試行錯誤しながらUSPに、ひいては筋湯らしさにまとめ、それを軸に発信や集客系施策を行っていくのです。
 
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 黒川温泉の場合は、集客系の施策に特筆すべきことがあったとは聞きませんが、筋湯温泉ではPRやアンバサダーの援用による話題化を行い、認知形成のスピードを稼ぎたいところです。打たせ湯を軸にするのであれば、来場客のデータを蓄積して、本当に肩痛・腰痛の治癒効果を謳いたいですね。
 
 こうして見てみると、地方の旅館でも、マーケティングの要諦は変わらないようです。

 すなわち、独自性・差別性の開発・確立と、そのコミュニケーション。その順序が逆になってはならないのも普遍的です。
 
 最後にひとつ、プライシングについて述べておきたいと思います。

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