カンヌライオンズ2021審査レポート

カンヌライオンズの審査を経験して、「個人を尊重する企業の取り組みから我々が学ぶべきこと」

 

広告賞受賞は誰のため、何のため

――今回2年分の作品を審査されて、今後クリエイティブの方向性はどのように変化していくと感じましたか。

 TBWA\HAKUHODOで働いている私にとって、カンヌライオンズはすごく大きなクリエイティブ指標でした。我われは、電通や博報堂に比べると、そこまで大きなチームではありません。だからこそ、世界で通用する賞を受賞すると、会社としてのエッジ、クリエイティブとしてのエッジになります。日本ではTCC(東京コピーライターズクラブ)やACC(ALL Japan Confederation of Creativity)もありますが、カンヌライオンズの受賞は世界中から一気にオファーが来るほどの影響力を持ちます。

 もちろん賞はあくまで、結果が出たものに与えられるものであって、「賞を目指すことが本当にプロとして正しいのか?」という意見や、広告はクライアントのための仕事なので、「賞に向き合うのではなく、クライアントとのパートナーシップを見るべきだ」という意見もあります。

 それでもあえて、仲間にもカンヌライオンズはじめ世界の広告賞を目指して欲しいと考える理由があります。

 それは、「我われはプロとして仕事をして結果を出して褒められる。でも、そこで我われの仕事はまだ7割しか完了していない」ということです。そして、残りの3割は何かと言うと、「良い仕事ができたら、その仕事の素晴らしさをみんなにもシェアすべきだ」ということです。なぜなら人は良い仕事を知ることができれば、自分の仕事への活用や自国では何ができるかのアイデアが湧いてくるきっかけになるからです。

 こうして良い仕事が世界中に連鎖していくことが理想だと思っています。「賞を目指すことに意味はない」という意見もあるなかで、私はあえてこれだけ多くのイシューが細分化して多様性が生まれている中で、企業はこんなにも素晴らしい取り組みをしたということを声を大きくして広めていくべきだと思っています。

――受賞作品が社会へのメッセージになるということですね。

 はい。それも踏まえて、最近は前評判が高い仕事が受賞する例がますます増えているように感じます。その理由は2つあって、ひとつは、みなさんが感じるようにSNSやインターネットなどで情報取得が速くなり、拡散しやすくなっていることです。

 2つ目はカンヌライオンズ自体の変化です。「advertising festival」というネーミングはすでに「festival of creativity」へと変化しています。つまり、広告からクリエイティブの採点に変わったんです。より多くのカテゴリーのクリエイティビティを称賛しようとした時、広告だけではなく、純粋に格好いいものや、ちょっとしたいいことが、受け入れられる時代になりました。

 我われが仕事を請け負う際も、届けたいターゲットに届けたい情報を届けることも大事ですが、日本で話題になることもそうだし、マーケットを日本だけにせず、世界中でいいねと思えるものを、ひとつ目線を上げてつくっていくことが今後さらに大事になっていくと思います。

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