広報・PR #02
東京オリンピックの惨事を経て、イベントのスポンサーシップは今後どう変わるのか?
重視される「ハウスエージェンシー」の存在
自社のPR活動を企業に内在する形でサポートする「ハウスエージェンシー」の活用を、私は勧めている。それは、以下の2つの理由からだ。一つは、スポンサーシップやそのPR活動において、今後ますます臨機応変な戦略変更やスケジュール調整などが求められてくるからだ。五輪のような大規模なスポンサーシップやメジャーな競技の世界大会では、これまである程度の「クリティカルマス(大多数でなくても、存在を無視できない程度の規模を超える分岐点)」の対象に好感度が高いメッセージを届けることが可能だった。
しかし、コロナ禍ということもあり、自国での57年ぶりの五輪開催は賛否が割れた。ここから我われが学ぶべきは、今後はビックイベントであっても「賛否が割れる」ことの想定と、こうした事態が起きた際の臨機応変な戦略変更である。
この点、規模の大小に限らずハウスエージェンシーは、自社の企業理念やサービス、コミュニケーション戦略について熟知している。毎回異なる広告会社やPR会社にいちからオリエンテーションし、業務委託を行うよりもスムーズな意思疎通が可能となる。
二つ目の理由は、生活者の趣向の多様化やコンテンツマーケティングの浸透により、今後はますます規模の小さなスポンサーシップ活動を企業が重視していく可能性が高いからだ。今回から五輪種目となったスケートボード、スポーツクライミング、サーフィンなど新たな競技に注目が集まった。
これまで大手企業としては、新たな競技の効果が読みづらく協賛しにくい種目だったが、今後は大規模スポンサーシップ(マスメディア中心)から、多種多様な種目へのマルチニッチのスポンサーシップへのシフトが考えられる。種目やチーム単位、あるいは選手個人との「共創活動」に近い形を前提としたスポンサーシップに軸足が移っていく企業が増えてくるものと予想している。
こうした「臨機応変なPR戦略の修正」や「マルチニッチ」なスポンサーシップとコミュニケーション活動は、案件ごとに提案を行うプロジェクト単位での総合代理店との協業よりも、日頃から自社と二人三脚で広報戦略立案から協業を行うハウスエージェンシーの形態の方が柔軟なPR活動が可能である。
ナショナルクライアンによる大規模スポンサーシップからマルチニッチなスポンサーシップへの転換、ハウスエージェンシーとの継続的なパートナーシップによる臨機応変なPR戦略立案とその運用が欠かせない時代を感じた東京五輪であった。
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