音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #32

誰でもできる、大きな視点から「戦略」を立てるコツ【音部で壁打ち】

 

この寓話から見えてくるのは何か


 ここで寓話を取り上げたのは、3人のうち誰が偉いとか立派だという意図ではありません。「自分は誰に共感する」といった好みはあっても、いずれも誇り高いプロフェッショナルです。石工には大工の仕事はできないかもしれませんが、大工にも石工の仕事ができるとは限りません。

 ではここで、ご質問の「細かい所から大きい所を考えるのではなく」というフィードバックを思い出してみましょう。石材や石壁に注意を向けていた二人を思い起こさせるかもしれません。自分が得意なことから考えるというのは、「資源をうまく使う」という意味では、それぞれの目的を達成するための正しい戦略です。間違ってはいません。同時に、石材や石壁は、必ずしも「大きい所」ではなさそうです。

 注意深い読者はお気づきのように、この寓話は「細かい所から大きい所を見る」ものではありません。身も蓋もない話ですが、ひとたび細かい所に集中してしまうと、大きい所に視点を移動させるのはとても困難です。手元の「実在する石材や石壁」に集中した意識にとって、町の繁栄のためには人の往来が必要で、巡礼先には巡礼者だけでなく食堂や宿屋、商人たちも訪れるから、町の繁栄には大聖堂を建てればいい」といった「繁栄の概念的な構造」は完全に視界の外です。よほど視点を飛ばす訓練を積んでいないと、石材を積みながら繁栄モデルを想起するのは、ほぼ無理です。

 そこで、この寓話から得られる「大きい所」を見るコツは、「まず石を見るな」であるように思われます。



 では何を見ればいいでしょう。戦略の構成要素は「目的と資源」の2つだけですが、ここで必要なのは目的の明確化です。そもそも何がしたかったのか?1年後あるいは3年後に、なにが起きていたら「我われは成功した!困難に打ち勝った!」と言えるでしょう。「新市場の創造?」「新ブランドの構築?」「衰弱しているブランドの復活?」「それとも年率5%の利益成長?」まずは「勝った!」といえる状況を明確にします。

 これはリーダーの大事な役割ですから、中期経営計画や、年間計画などに示されているかもしれません。石材や石壁を見る前に、未来の町の姿を見ましょう。

 ひとたび「勝った!」状態を把握したら、その目的を再解釈します。10億円の利益、と書かれているところを、10万人の新規ユーザーが1万円使う、などのように単位を変えて、マーケティング活動で達成しやすくします。それぞれの再解釈案が戦略の選択肢です。新規ユーザーでも達成できるし、既存ユーザーで実現する絵も描けるでしょう。こうして、所与の目的をいくつかの方針に再解釈できたら、投入可能な資源がもっとも大きくなる、つまり「資源優勢」を確立できる選択肢を選びます。これで必然的に、もっとも効率よく目的達成につながる選択肢が選べます。

 戦略について、もう少し深く理解したい場合には、拙著『なぜ戦略で差がつくのか。 』を一読してみてください。ひょっとしたら、見えることが増えるかもしれません。

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