国連難民高等弁務官事務所の広報日記 #01

「帰宅難民」「引っ越し難民」という言葉が、本当の難民への誤解を生む【国連難民高等弁務官事務所 守屋由紀】

多国籍集団「UNHCR」という組織

 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)駐日事務所の守屋由紀です。11年前、2007年から広報の仕事に携わっています。

 UNHCRとは、どのような組織かご存知でしょうか。国連機関のひとつで、本部はスイスのジュネーブ。世界中に130カ国、478都市に事務所が置かれています。

 日本でよく知られている国連機関は、他に「UNICEF(国連児童基金)」「UNDP(国連開発計画)」「UNESCO(国連教育科学文化機関)」などがあります。先の「戦争の惨害」を終わらせるとの強い意思のもとに起草された国連憲章の精神に従って、各機関は国連の一部を担い、職員は世界各地で休むことなく、細胞のように働き、大きな〝身体〟を支えています。

 UNHCRのトップである国連難民高等弁務官は、フィリッポ・グランディ。イタリア人です。先代は現在の国連事務総長、アントニオ・グテーレス。1990~2000年の10年間は、日本人の緒方貞子さんが務めました。私も彼女の下で働き、「難民支援」のAtoZを学びました。緒方さんについては、いずれこの連載の中でお話する機会があるかと思います。

 UNHCRの職員は、各国の首都や地方部に置かれた事務所に所属していますが、その中で直接、難民の方を相手に仕事をする現場を「フィールド」と呼んでいます。1万1000人ほどの全スタッフのうち88%は現場勤務で、残りはジュネーブの本部などで政策・プログラム形成や予算管理などをしています。詳しくは改めて紹介しますが、日本も現場なんです。
 
リビアの首都トリポリの沿岸で、難民を迎えるUNHCRスタッフ© UNHCR/Sufyan Said
 職員の国籍は、さまざまです。必ずしも出身国で仕事をするわけではなく、世界中あちこちに派遣されます。私がいる駐日事務所にも、上司であるドイツ人のダーク・へベカーをはじめ、今までいくつもの過酷な現場を経験したスタッフが多数います。

 多国籍集団ですので、日本人同士でも内部で共有する文書、メール、会議はもちろん、外部とのやりとりもすべて英語です。

 私は父親の仕事の都合で、中学2年生まで香港、メキシコ、米国と日本を行ったり来たりした帰国子女です。英語力の基礎は、子どものころの海外で生活した体験で培われたものだと思っています。

 ただ仕事で使う英語は、ときに相手と「交渉」し「説得」した上で、「共感」を得て、具体的な「譲歩」や「援助」を引き出すための大切なツールです。というよりも、果たし合いで野武士が使う「刀」のようなものです。戦うための武器なのです。

 ネイティブスピーカーや専門家が、私が話す英語を聞いたらどう思うのでしょうか。おそろしいので、普段は考えないようにしています。というより細かいことに拘泥していたら仕事が前に進まないのです。

 いまこうしている間も、世界中に助けを必要としている難民が大勢います。問題が山積しているというより、日々、崩れ落ちる雪崩のまっただ中で仕事をしているのです。
 

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