女性の『買う瞬間』をつくる方法 #01
女性の心を捉えるためには「エビデンス+情緒」が大切 【コーセー・吉野家・ライオン・RIZAP 座談会】
マーケターに求められる、右脳と左脳の間の往来
――全人口の約半分は女性ですから、「女性」というカテゴライズは極めて抽象的ですし、対象者は非常に多様です。皆さんは日々の業務の中で、それぞれどんな「女性」をターゲットとしていて、態度変容・購買を喚起するためにはどんなポイントがあると考えていますか。
小林 「女性だから」「男性だから」という特徴は、基本的にはあまりないと思っています。女性は“移り気”でブランドスイッチしやすい、男性はブランドへのロイヤリティが高い、ということはなく、あくまで商材による違いなのかなと。例えば化粧品で言えば、スキンケア商品はスイッチされにくいけれど、ポイントメイク商品はスイッチされやすいという特徴があります。
ただ、女性に訴求していく上では、年齢を問わず「かわいい」という要素は重要だと感じています。「かわいい」に心を動かされるのは、10~20代でも40~50代でも同じで、それが購買意思決定に強く影響するのです。商品自体に「かわいい」の要素がなくても、プロモーションにはその要素を持たせるなど、どこかに「かわいい」を仕込むことは必須と言っていいのではないでしょうか。
鈴木 情緒的な価値が大切というのは頷けますね。ジムでプロテインを販売していると、女性はフレーバーで、男性は効果・効能で、商品を選択する傾向が強いんです。ジム直販のプロテインは直近でリニューアルを予定しており、フレーバーが全面的に変わります。そのときに、女性のお客さまに対してどう切り替えを促していくか、コミュニケーションに工夫が必要だと議論を重ねているところです。
田中 以前、はなまるうどんのCMOを務めていたときに、印象的なエピソードがあって。うどん店の中でも女性のお客さまの比率が高いはなまるうどんで、「豆乳鶏ごまうどん」というヘルシー志向の新メニューを開発したときのことです。2年連続で却下され、3度目の正直!とばかりに男性担当者が提案してきたのですが……このメニュー、ひと押しが足りない。そこで、テレビのプロデューサーから主婦向け番組の視聴者目線でアイデアをもらい、味噌と、香川発のはなまるうどんらしいオリーブオイルを加えたところ、見た目も味もぐっと良くなり、大ヒットしたのです。
男性担当者が左脳的に考えた当初案は、効果・効能の点では申し分ないものでした。そこに「見た目」「味」という右脳的な視点が加わったことで、お客さまに支持される商品が完成したのです。「右脳的=女性的」とするのは安直すぎますが、右脳と左脳を行き来することで、良いものを生み出せるのだという実体験を得ました。
横手 機能的価値で差別化するのが難しくなってきている中、情緒的価値を意識することによって、女性ばかりでなく男性の心をも掴むことができますよね。コーセーの「雪肌精」にしても、ライオンの「クリニカ」にしても、機能的価値はもちろんのこと、ブランド固有の情緒的な価値があります。例えば「クリニカ」は、「歯医者さんにほめられる歯」という右脳的なベネフィット訴求をしています。
「あの歯磨き粉を使ったら歯がキレイになった!」と確信をもって実感する瞬間というのはそう多くありませんから、その商品を選んだことへの納得感を感じてもらう意味でも、右脳的要素と左脳的要素を両輪で考えることが重要だと思います。吉野家さんのような「食」カテゴリが持つエンターテインメント性を、私たちトイレタリー業界に上手く取り入れられないかと、いつも考えています。
田中 「食」にまつわる業界は、美味しくなければ絶対に売れません。ですから当然、「味」という右脳的訴求を最も重視するのですが、とはいえ原材料や価格、店舗の立地など、お客さまがそれを選ぶ理由が提示できなければ、継続的に消費してもらうことはできません。お客さまの中に定着させていく上では、美味しいだけではだめだと感じることが多々あります。
ウーマンズインサイトアジェンダ2018 国内外のブランド企業の中でも女性向け商品・サービスを担当するトップマーケッター100人以上が集結する合宿形式のカンファレンス。女性に買ってもらうための戦略構築や施策立案の知識とスキルを習得できる。
http://marketingagenda.jp/wia/
鈴木 ポイントは、「エビデンス+情緒」ですね。RIZAPのパーソナルトレーニングジムもフードも、ダイエット期間中だけではなく、継続してもらうために、コミュニケーションの工夫が求められると思います。お客さまの健康維持・増進を、長きにわたってサポートする存在へと、グループ全体で変わっていきたいと考えています。