音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #33

マーケティング視点から解説。日本でDXが進まない、本当の理由【音部で壁打ち】

      

DX推進で多くの組織の欠落しがちな視点

       
 さて、DXに話を戻しましょう。モータリゼーションを進めた3点を、デジタル・トランスフォーメーションに当てはめてみたいと思います。

 運転しやすい環境を整える際に、社会インフラとして舗装路や自動車の供給網などが拡充されました。デジタル化やデジタルトランスフォーメーションにおいては、データの送受信量を高める5Gのような通信技術革新や、センサー技術の進化や、マーケティングサービスの充実によるデータの種類や精度の強化が考えられます。いままでに入手できなかった種類のデータや、いままでとは頻度や領域が大幅に増えたデータの授受が可能になってきています。

 インフラや環境は早いペースで整ってきました。前述の「デジタルのエンジニアが足りない」というのは、モータリゼーションにおける国産自動車会社の隆盛や、販売店網の拡充(自動車のエンジニアの多くは、メーカーと販売店に帰属しています)に相当するかもしれません。モータリゼーションの発展に自動車のエンジニアは不可欠だったと思われますが、エンジニアさえいれば完成できたというものでもありません。デジタルトランスフォーメーションも、エンジニアさえいれば大丈夫、ということではないと想像します。

 民主化、つまり誰でも使える仕組みとして、モータリゼーションでは運転方法の標準化や技術革新が起きました。デジタル化においては、リテラシーが低い人々を排斥するのではなく、そうした人々でも使いやすい技術やUIの強化が望まれるでしょう。運転が得意でない人をサポートするために、自動車の技術は大いに進化しました。街中を走る限りにおいて、極端に運転が下手な人というのは20年前よりも大幅に少なくなっています。縦列駐車も、安全なブレーキングも、最近では自動でやってくれます。

 これからは、デジタルについても同様のことが発生するでしょう。運転者側では運転免許制度と教習所がモータリゼーションに貢献しました。同様のことがデジタル化においても重要です。日常生活で車を使うために必要で十分な自動車リテラシーが確立されたように、デジタル化についても日常の運用に必要で十分なリテラシーの確立が不可欠です。エンジニアが足りないのではなく、エンジニアを必要としないエンジニアリングが足りていない可能性があります。

 自動車の仕組みがわからなくても運転できることがモータリゼーションにつながったように、一部の担当者だけではなく多くの人々が運用できることは、きっとデジタルトランスフォーメーションを加速するでしょう。

 そして、モータリゼーションが進む大きな理由に社会の動機がありました。車に乗って、友だちとゴルフに行きたい。家族と出かけたい。多くの組織のデジタル・トランスフォーメーションに欠落しがちなのが、この部分であるかもしれません。
          

            
 「車を運転したい」という人が、少数派であるのと同じように、そもそも多くの人は進んで「デジタル・トランスフォーメーションしたい」わけではありません。インフラを整え(お金がかかり)、リテラシーを高め(労力を使い)、なにができるようになるのか。この点を魅力的に描いて動機を高めることで、過去にうまく浸透しなかったいくつかの新技術とは異なる結果につなげられるでしょう。

 どれだけ高速道路をつくっても、どれだけ自動運転が進化しても、行き先がなければ車には乗りません。大きな注意が必要となるのはこの部分のように思われます。
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