音部で「壁打ち」 – あなたの質問に答えます。 #特別編01
馴染みの薄い商品をマーケティングの力で普及させる方法 【シン・音部で「壁打ち」レポート】
マーケティング・プロフェッショナルである音部大輔氏が、マーケティングの現場で悩んでいるマーケターからの質問に対し、自身の経験をもとにアドバイスする連載企画「音部で『壁打ち』」。10月に開催されたマーケティング・フォーラム「ネプラス・ユー」では、「シン・音部で『壁打ち』」としてリアルの場に飛び出して、マーケターが壇上で音部氏に質問を投げかけました。質問者からのリアルな質問と回答は、マーケティング力を高めたい人にとって、とても役立つものになりました。
論理的な見解の相違も「目的」と「資源」で説明できる
【質問】
当社は地域のパン屋さんが抱える課題をITと冷凍技術で解決し、パン業界のDXを推進する企業です。
ひとりで切り盛りされているような、おいしいと評判のパン屋さんに当社の技術を使った冷凍パンやECサイトを活用してほしいと思っているのですが、「うちのパンを冷凍するのか?」、「ECをやる必要はあるのか?」と理解してもらえないケースが多々あります。
私たちのことを知ってもらい、そして良好な関係を構築するにはどうしたら良いのか、悩んでいます。タッチポイントが限定的な法人・個人事業主に対して、どのようなことを意識して、コミュニケーションを設計していくとよいでしょうか?
ひとりで切り盛りされているような、おいしいと評判のパン屋さんに当社の技術を使った冷凍パンやECサイトを活用してほしいと思っているのですが、「うちのパンを冷凍するのか?」、「ECをやる必要はあるのか?」と理解してもらえないケースが多々あります。
私たちのことを知ってもらい、そして良好な関係を構築するにはどうしたら良いのか、悩んでいます。タッチポイントが限定的な法人・個人事業主に対して、どのようなことを意識して、コミュニケーションを設計していくとよいでしょうか?
相手が会社でも、個人でも、意見が合わない理由はだいたい2つです。ひとつは、それを実行する手段や認識が合っていないときです。同じことをやろうとしていても、一方は「楽勝でしょ」と思っているのに、他方では「そんなことはできない」と思っている場合。つまり「資源」の認識が異なる場合です。もうひとつは、そもそもやろうと思っていることが合っていない場合。つまり、「目的」が異なる場合です。拙著『なぜ「戦略」で差がつくのか。』にも書いたのですが、戦略を立てる際の構成要素は「目的」と「資源」の2つしかありません。感情的な反感ではなく、論理的な意見の相違はこの2点の相違で説明できることが多いと思います。
今回のご相談に当てはめてみましょう。質問にあった「うちのパンを冷凍するのか?」は「資源」の問題だと理解できます。なぜなら、パン屋さんは冷凍技術という「資源」をまだよくご存じないので、「冷凍したらパンがまずくなる」と思っているからです。「凍らせてもパンがまずくならない」冷凍技術という「資源」があることを理解してもらえば、きっと合意できます。
もうひとつの「ECをやる必要はあるのか?」、これは「目的」です。目的が一致していないときには、同意できる上位概念に上げればいいことが多そうです。逆に、下がっていくとさらに合致できなくなります。極端な話ですが、「全世界や人類が平和でありますように」ということに同意できない人は、あまりいませんね。こうした上位概念を「地域の人々に食べてもらえれば満足。ECは必要ない」と思っているパン屋さんに当てはめて考えてみましょう。
「冷凍パンやECを始めると売上がアップしますよ」、「経営を安定させることができますよ」と言っても、パン屋さんの心にはうまく響かないかもしれません。結果的には売上があがり、経営が安定するのですけれど、多分、パン屋さんが開業した「目的」はそこではないと思います。もう少し、目線を上げてみましょう。利益を出さないとパン屋さんを続けられませんが、利益のためだけにパン屋さんをしているのではありません。
「これをやると売上アップしますよ」や「これをやると経営が安定しますよ」という、あまりロマンチックではない感じの、もう少しマーケティングらしく言うと、パーパスとあまり関係ない話をされても、そこに同意するのは「嫌だ!」という雰囲気すらあるかもしれません。