企業インタビュー #02

コロナ禍で新規登録者数5倍。パンのサブスクはどう会員を伸ばしているのか

前回の記事:
話題の企画を連発、ブラックサンダーで「遊び心」と「幸せ」を届ける。有楽製菓 河合辰信
 地域のパン屋と消費者をつなぐプラットフォームを構築するパンフォーユーは、全国にあるおいしパン屋さんのパンを独自の技術で冷凍し、サブスクリプション方式で届けるサービスなどの事業を手掛けている。

  2019年にサービスローンチ後、会員を着実に伸ばし、コロナ禍においては新規登録者数が2020年12月と2021年1月を比較すると約5倍、登録者数が1万2000人を超えるなど、飛躍的に成長している。2021年12月9日には、日本初となる全国の加盟パン屋で使用できるパン専用デジタルギフト券 「全国パン共通券」の提供を開始するなど、新しい取り組みも展開してきた。今回は、パンフォーユーの取締役である山口翔氏にサービスの起源やビジネスを伸ばす秘訣、企業として目指す未来を聞いた。
 

魅力ある仕事を地域にも     

――冷凍パンのサブスクリプションの発想は非常にユニークですが、パン好きが功を奏しサービスの立ち上げに至ったのでしょうか。背景を教えてください。

山口 パンフォーユーは、2017年1月に代表の矢野健太が電通やNPO法人、教育関連のベンチャーを経て創業しました。

 バラエティーにとんだキャリアを持つ矢野は、自身の経験から、教育だけではなく都市部と地方の差を解決できないかと長年思っており「魅力ある仕事を地方にも」をビジョンに掲げました。

 そのタイミングで着目したのが、高級食パンブームだったんです。
 
山口 翔
パンフォーユー 取締役

――高級食パンブームと地域格差を結びつけたきっかけは何でしょうか。

 東京では1個600円の高級食パンが売れている中、地方ではクオリティが高いのにパンが1個100円前後で販売されていました。地方のパン屋さんが商圏を越え、この格差を埋めるアプローチができれば、結果的に地域経済に貢献できるのではないかと思い、「新しいパン経済圏の拡大」を目指すことにしたのです。

 そもそも、創業時は小麦やバターの種類などをユーザーさんが選んで、自分の好きなパンが届くというパーソナライズされたサービスを提供したのですが、ニッチすぎてうまくいかなかったんです。そういった経験もあってパンのサブスクリプションサービスである「パンスク」や法人向けの福利厚生サービス「パンフォーユーオフィス」、パンを販売したい事業者向けの「パンフォーBiz」などの事業が立ち上がり、今に至ります。

 最近では我われのビジネスモデルを知って、他の食材で同様のサービスが提供できないかお問い合わせをいただくこともあります。でもいまは、まずパンに集中して新しい「パン経済圏」をつくることにフォーカスしたいと考えています。     
 

個人向けから法人向けまで、幅広いサービスを展開

――パンのサブスクといってもパン屋さんのネットワークを潤沢に持つ難しさもあると思います。どのように店舗を開拓されているのですか。

山口 パン屋さんからご連絡いただくこともありますし、こちらからお声かけすることもあります。

 店舗開拓の担当が、月ごとに地域を決めてエリア内のパン屋さんを一軒ずつまわるという地道な開拓もしています。直接お店の方とお会いして、パンの冷凍についても納得いただいた上で一緒に取り組みますので、時間はかかりますが、地道な努力を積み重ねていくことが大切だと思っています。

――パンを冷凍することやサブスクモデルを、地方のパン屋さんが理解するのは難しくありませんか。

山口 そうですね。たとえば、QR決済を導入して新しい購買体験をつくろうという情報感度の高いパン屋さんがある一方、古くから愛されているようなパン屋さんは「冷凍って?通販って?」と反応することは当然あります。そこは時間をかけて我われのサービスを理解してもらえるよう、地道にがんばるしかないのです。

――地道な努力でお付き合いがはじまったパン屋さんとは、お客さまに届けるメニューをどのように決めているのですか?

山口 個人向けサービスの「パンスク」は、バゲットや食パン、菓子パン、惣菜パンまで、パン屋さんのおすすめセットを1つの箱に8個前後入れてお届けしています。社内のパンスクチームメンバーとパン屋さんとで相談しながらお届けする     ラインアップを決めて箱1つでそのパン屋さんがまるごと楽しめるようにしています。

 2つある法人向け事業のひとつ「パンフォーユーオフィス」は、「パンスク」同様に地域のパン屋さんの手作りパンを冷凍でオフィスにお届けするサービスです。もうひとつの「パンフォーユーBiz」は百貨店、飲食店、商業施設、映画館など様々なチャネルでパンの販売ができる事業になります。例えば2021年7月12日から8月23日に銀座ロフトで開催された「銀座カレー研究所」のイベントにて全国のパン屋さんが作った美味しいカレーパンを8種類集めて冷凍の状態で販売しました。
 
2021年7月12日(月)~8月23日(月)に銀座ロフトで開催された「銀座カレー研究所」にて冷凍カレーパンを販売。

 そのほか、映画の公開に合わせてロゴ入りのパンをつくったり、ドコモショップ内のカフェで販売されるパンを提供したり、法人とパン屋さんとを連携してニーズに答えていくことも我われの使命だと思っています。

――コロナ禍でもサブスクサービス「パンスク」の新規登録者数が2020年12月と2021年1月を比較して約5倍になったそうですが、どのように消費者の心理を捉えてどのようなコミュニケーション戦略を取られているのでしょうか。

山口 パンスクは、さまざまな切り口を提案することを意識してきました。例えば、コロナ禍で巣ごもり需要が高まっていることを受けて「自宅で楽しめるサービス」という点を全面に出し、パン屋さんから見ても魅力的なサービスと思っていただけるよう、パン屋さんの売り上げに貢献できる点を打ち出すといったことです。

 最近ではSDGsの流れが強くなっていることを受けて、パンスクというサービスが「食品ロスが起きにくい」、「パン屋さんの働き方改革につながる」、といったアピールをすることもあり、それがまわりまわって消費者の評価につながるということも目指しています。

 また、他の企業さんとの共同プロモーションも積極的に取り組んでいます。同じような属性の消費者をターゲットとする親和性が高い企業にお声がけし、双方で自社ユーザーの体験価値をあげつつ、新規顧客の獲得をすることを考えています。

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