いま注目のビジネスパーソン #01前編

海外向けに日本のお菓子をサブスクで提供。年商40億円「ICHIGO」成功の秘訣に迫る

 

商品が届いた瞬間の「体験」を価値あるものに

藤原 マーケティングの話をすると、いまはカスタマーエクスペリエンスが重要だと言われます。そのあたりのこだわりはありますか。

近本 ものすごくあります。海外に輸送する箱の耐久性が高くないといけないので、素材選びにこだわっていたり、SNS映えするデザインにしたり、通販は一瞬の体験がすごく大事なので箱を開けたときに感動するような商品の詰め方にもこだわっています。だからこそ、商品が一番美しく見える詰め方を書いた梱包指示書をバイヤーチームがつくり、倉庫に共有し、社員がアルバイトに徹底させるということまでやっています。

 カスタマー接点ではWebやSNSに掲載する文章は、必ず英語ネイティブなスタッフに書かせています。いまその地域で流行っている言い回しは何か、この言い方は古いとか、こういう言葉がお客さまの心を掴むとか、そういうところまでこだわりを持っていますね。



藤原 「ICHIGO」はどのようなお客さまが多いのですか。

近本 男女比でいうと85%ぐらいが女性。サービスによって年齢層は違うんですけど、20代から40代が多いです。

 エリア別では、米国、イギリス、カナダ、オーストラリアが顧客のビッグ4で、この4ヶ国で全体の80%くらいを占めています。そのうち70%が米国で、ヨーロッパ圏まで入れると90%くらいになるので、ほぼ欧米が占めています。それ以外のエリアとして、アジアやアフリカ、中東も商圏になっています。

 うちの会社では半年に1回くらい顧客サーベイを行っているんですが、その結果では40%の方が日本に行ったことがあるか、これから日本に行きたいと思っているので、日本に興味を持っている方は非常に多いですね。

 さらにいえば、お菓子のサブスク「TokyoTreat」の顧客は、一緒にICHIGOのサービスを作っているように思ってくださる方がとても多いんです。カスタマー同士でサービスや日本のことを自由に話せる掲示板があり、最初は社員がモデレーターになっていたんですが、徐々にお客さまが率先してモデレートしてくださるようになりました。「今月の『TokyoTreat』もう届いた?」と書き込む方が出てくるくらい熱狂的に応援してくださるのも海外独特な文化だと思いました。



藤原 顧客が熱狂する瞬間って、何かきっかけがあったんでしょうか。

近本 うちの場合は商品そのものかなと。1年通して12回のテーマを設けて発送していますが、年に何回かテーマがバズったり、商品がバズったりするんですよ。そのときにカスタマー同士で「これ最高だったね」とものすごく盛り上がって、継続率が伸びるということはありますね。
 

日本文化を海外に伝える架け橋

藤原 いい話ですね。

近本 私たちを応援したいとか、私たちの後ろにいるメーカーさんを応援したいと思ってくださる方がすごく多くて、それを顕著に感じるのが「Sakuraco」という和菓子の詰め合わせボックスなんです。2021年2月に開始したサービスで、新規の会員数の伸びでいうとICHIGOのサービス中でも一番の伸び率です。

 もちろん、全国にある小さなお菓子メーカーさんに1軒1軒電話をかけたり、訪問したりと地道な営業をして取引を進めているんですが、ほとんどのメーカーさんは海外進出がはじめてなんです。

 それらの小さなメーカーさんがどういう経緯で事業をはじめたのか、たとえば「おかき」ができた起源をマガジンやブログに載せてバックグラウンドを知ってもらうということをしています。これも「Sakuraco」の顧客が増えた理由です。

藤原 メーカーさんと一緒に商品づくりもするんですか。

近本 はい。メーカーさんの商品を仕入れるだけだと他のサービス経由で買っても一緒ということになるので、そこは自分たちの強みを出したいなと考えて商品づくりも積極的に行っています。最近は、ネスレジャパンさんにお声がけいただいて「TokyoTreat」オリジナルのキットカットをつくりました。

 他社との差別化に力を入れているので、商品開発やテーマに関するマーケティングの力がすごく必要になってきます。なので、常に情報収集して、「こういうものがお客さまは好き」、「こういうパッケージが受け入れられる」といったアイデアも取り入れています。

<後編につづく>
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