米田恵美子琉 市場創造の「すすめ方」 #02
成熟した柔軟剤市場を6年で1.8倍に、P&G「レノア」の市場拡大戦略【インサイト・ピークス 米田恵美子】
柔軟剤市場を6年間で1.8倍に拡大
当時、私はP&Gで日本の洗濯関連商品の市場・消費者戦略を任されていました。ブランド担当とR&D、営業担当で組織される洗濯関連商品マルチカテゴリーチームの一員として、日本におけるP&Gの「柔軟剤(Fabric Enhancer)」の立て直しという大きなミッションに取り組むことになったのです。ここで注目していただきたいのが、P&Gが柔軟剤カテゴリーを「Fabric Enhancer」と呼んでいることです。「洗濯の仕上がりをよりよくする製品」と訳すのがいいかもしれません。ここから分かることは、「柔軟剤は洗濯ものを柔らかく仕上げるものである」という限定した枠で捉えず、「洗濯の仕上がりをよりよくする製品を開発して立て直す」という意味が含まれていることです。
そこで開発されたのが、防臭効果をもった柔軟剤「レノア」です。新しく防臭効果を加えることで、市場創造とシェアの奪還を目指しました。そして見事に「レノア」は発売直後から爆発的に売れて、結果的に発売後6年間で柔軟剤市場を1.8倍に拡大することに貢献しました。
「違うけれど、違わない」微妙なバランスを追う
市場が拡大できたのは「レノア」が、柔軟剤というカテゴリーの定義を変えることに成功し、柔軟剤を使う人や頻度を拡大できたからに他なりません。「カテゴリーの定義を変える」と言っても“言うは易し”で、苦労の連続でした。従来品と全く違う商品にしたいが、大きく変えるとユーザーや店舗から受け入れてもらえないというジレンマがあります。かといって違いが伝わらないと、全く意味がありません。
「レノア」の開発にあたって、「従来の柔軟剤とは違うけれども、柔軟剤なんです」「柔軟剤だけれども、今までと違うんです」という微妙なバランスを保つため、商品コンセプトやパッケージを何度も繰り返してつくりました。
テレビCMのオープニングで「柔軟剤でこんなことも!?」という言葉を入れたのも、その微妙なバランスをとるための苦肉の策のひとつでした。