江端浩人のDX交友録 マーケター編 #01

【本田哲也・江端浩人 対談】不確実性が高い時代に求められる、ナラティブ&フレキシブルな対応

 コロナ禍で注目されるニューノーマル。不確実性が高まり、新しい生活様式が求められるいま、どのように消費者にアプローチしていくべきか。iU 情報経営イノベーション専門職大学教授で書籍「スタンフォード式 世界一やさしいパラルキャリアの育て方」の著者である江端浩人氏と、PRストラテジストで書籍『ナラティブカンパニー』の著者である本田哲也氏が対談を通して思考を巡らせた。
 

生活者のナラティブがパワーを持ち始めている

江端 本田さんは国内だけではなく、国際的にも数々のブームやムーブメントをつくってきていらっしゃいますね。

本田 はい。グローバル企業のグループ会社の代表をしていたので、日本のみならず海外の仕事にもかなり携わりました。ただそのムーブメントというのも、昨今はつくりづらくなりつつあると思っています。

江端 本田さんは、去年『ナラティブカンパニー―企業を変革する「物語」の力』という本を出されましたね。ナラティブという言葉は、マーケティング業界でようやく浸透してきたという状況だと思うのですが、実感はどうですか?
 
左:江端浩人氏(スタパラ著者、iU教授、コンサル、複業家)、右:本田哲也氏(PRストラテジスト)
本田 昔から「ナラティブアプローチ」という概念はあるのですが、ここ最近ようやくビジネス領域で浸透して使う人が増えた印象がありますね。

江端 「ナラティブ」は「ストーリー」とは違うものとして定義されていますよね。まだまだ同じものだと思っている人が多いのではないかと思うんです。

本田 その2つを厳密に定義して違いを規定するのは難しいですが、書籍『ナラティブカンパニー』の中で3つの観点から区別しています。

ひとつ目は、演者の違いです。「ストーリー」は主語が「企業」です。企業の成功物語や商品開発の秘話は、どこまでいっても主語が「企業」や「ブランド」ですが、ナラティブは主役が生活者で、あくまで「顧客」側の物語なんです。

2つ目も重要で、時間軸の違いです。ストーリーはフォーマットが起承転結など、始まりがあって終わりがあるんです。一方、ナラティブの概念に終わりはなく、常に現在進行で続いていきます。

それから3つ目は舞台設定です。どうしても企業が主語のストーリーは「競合に勝った、負けた」というマーケットのなかの話が多いのに対して、ナラティブは社会的な物語なので社会起点で、舞台は社会全体であるということです。だからストーリーの上位概念のようなイメージを持っていただくといいかもしれないですね。

江端 従来は企業からの発信をメディアが伝えることが多かったのですが、いまはソーシャルメディアでユーザーの声としてが発信されるようになりました。そうなると演者も変わってきますし、時間軸としても連続的に色々なことが起きて、それら全てがナラティブになるということですよね。やはりソーシャルメディアの影響が大きいと思います。

本田 そうですね。個人の情報発信装置としてのソーシャルメディアという側面に加えて、その普及によって企業の発信も個人の発信もフラット化しています。無数の物語、無数のナラティブで溢れているわけです。

かつては企業の物語が大きなストーリーとして受け入れられましたが、最近、特に若い世代を見ているともっと身近な話、特に友だちの話など半径5メートル、10メートルくらいにあるような物語の方が心に刺さるみたいです。私たち生活者それぞれの物語がパワーを持ち始めているということです。

江端 私も大学で教鞭をとっている中で、ソーシャルメディアの本質は可視化だと言っています。人の頭の中は今まではよく分からなかったんだけど、極端な話、誰かがTwitterで「お腹が空いた」とつぶやいたら、「あの人はいまお腹が空いてるんだな」とどこにいてもわかってしまう。

本田 はい、単発的なつぶやきだけでは、なかなかその背後にある物語までは分からないかもしれませんが、例えば「note」といった自分の考えていることをしっかり発信できる方法が飛躍的に増えたと思うんですよ。

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