江端浩人のDX交友録 マーケター編 #01

【本田哲也・江端浩人 対談】不確実性が高い時代に求められる、ナラティブ&フレキシブルな対応

ナラティブには、パーパスが必要になる

江端 本田さんはナラティブを広めるための戦略はどのようにつくるんですか。

本田 最近の仕事は結構そちらにシフトしていますね。単純に「PRの作戦を考えてください」よりも「生活者と一緒に紡げる、我が社のナラティブとは何だろう?」という議論が急激に増えていますね。

もちろん企業にも伝えたいことはあるし、企業が背負っているストーリーがある。いままではそれをある程度、美しく演出して伝えればいいという話でしたが、いまはこういう生活者のナラティブがあるよねと話をしています。そういう接点も意識的につくらなきゃいけないですよね。

江端 生活者の反応を見ながら、施策を組み立てていくということですよね。ある意味、ちょっと面倒くさいですね。

本田 はい、美しいストーリーをつくろうと思ったら、プロフェッショナルがみんなで取り組めばつくれます。ただ、生活者それぞれの違う物語もあるなかで、企業の言いたいことをどういうふうに掛け合わせて化学反応をどう起こすかという視点が大事です。そういう時に、いわゆるパブリックリレーションズ(PR)のノウハウが応用できている感じています。

江端 餃子の話が代表的ですよね。

本田 はい、去年話題になった味の素冷凍食品さんの手抜き論争のことですよね。とある主婦の方が冷凍餃子を食卓に出したら、子どもは喜んだのに旦那は「手抜き」と言った、と。それを怒ってツイートしたんですよね。

そうしたら味の素冷凍食品の公式アカウントがすぐに反応して、「それは手抜きじゃなくて、手間抜きなんだ」と。「私たちが工場で手間を抜いているから、お母さん方はその空いた時間をお子さんの相手など有意義なことに使ってください」と発信したところ、40万いいね!がついたんです。



発端となったツイートは完全に生活者のナラティブですよね。それがこういう形で可視化されたから、餃子工場の動画をつくって流すなどPRも含めて色々取り組んだんです。生活者のナラティブと企業が言いたいことを紡いでいくような感覚でした。テレビなどマスコミにも大きく取り上げられてキャンペーンとしても大成功したんですね。

参考:企業の投稿が44万いいね! 冷凍餃子の#手間抜き論争が大きく話題化した理由


江端 そういう投稿は、SNS担当者が独自の判断でするんですか。

本田 そうですね。リアルタイムでのアクションは、ある意味Twitterの技ですよね。でも何でもかんでも反応するかというとそうではない。

自分たちの企業や公式アカウントの担当者が本当に大事にしていることに関係することが発信された時に反応します。これは言ってみれば「パーパス」がしっかり浸透しているからなんです。普段から信念を持ってないとできないと思うんですよね。

新型コロナの影響もあって、先が分からないですよね。そういうときは精緻な計画よりも、フレキシビリティがある対応力が必要です。でも、対応するには指針となるものが必要で、それが最近では「パーパス」と呼ばれています。そういう信念や想いがより大事になってきていると感じますね。

江端 いままではメーカーの発信に消費者が反応しましたが、いまはメーカーが消費者の発信に反応するという共創関係にあるわけですね。

本田 法人格を隠すというわけではないですが、どちらかというと個人格を強めにしたほうがうまくいく時代だと思っています。「俺たちは大企業だからさ」と、上から目線のスタンスはなんとなく嫌がられるんですよね。
 

フレキシブルであることが強みになる

江端 本田さんは本田事務所として独立されましたが、外資系の日本法人を経営していた時と違いはありますか。 

本田 「フレキシブルチーミング」ということを掲げて独立したので、基本は正社員がいないんですよ。「オーシャンンズ11型」と言っているんですけど、お客さまの課題に対して、その都度チームを組成していて、これはいまのところすごく成功しています。いまはフレキシブルであることは重要な価値だと思います。これが強いか弱いかは競争力のひとつだと思いますね。

江端 プロジェクトにコミットしている方が強い可能性もありますからね。

本田 そうなんですよ。期間もある程度、限られますよね。だらだらやる話でもないし、ぐっと集中してクオリティのいいものをプロジェクトとして完了し納品する。その方がいまの時代に合っているんじゃないですかね。

江端 最後に今後、考えていることを教えてください。

本田 PRの仕事を長くしてきて良かったなと思っています。不確実性が高い時代になったし、もう何が正解か分からない時代になりました。そのなかでどう対応してフレキシブルにいくか、覚悟を決めてしまえば、これこそがワクワクする仕事だと思うんです。そういう発想を持てば、マーケティングや広告に従事されている方も色々突破できると思うんです。ぜひ私の本も読んで欲しいですね(笑)。

江端 本田さんは Twitter でも毎日発信されていますので是非フォローして頂ければと思います。今日はありがとうございました。

※この対談の模様は「江端浩人の「スタンフォード式」幸福度が高まるビジネス&キャリアの育て方」にも掲載されておりますので、動画で視聴したい方はこちらをご覧ください。

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