ダイキン片山氏に聞く、時代が変わっても揺るがないブランドパーパスを軸にした顧客との関係構築
2022/02/16
同社は、パンデミックを理由にブランドの打ち出し方を変えたわけではなく、どんな時代でも揺るがないパーパスを掲げて活動しています。どのように生活者とのコミュニケーションをとっているのか、長年ダイキンのブランド作りとプロモーションに携わってきた、総務部 宣伝広告グループ長 部長の片山義丈氏に聞きました。
数字に踊らされず、自社の情報を誰に届けたいかを見極める
――新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、広告宣伝グループの情報発信に変化はありましたか。片山 我われの情報発信の手段は変わらず、テレビによる認知獲得から始まり、最終的にはアーンドメディアで関係性を深めるといったように統合型コミュニケーションを行っています。ただ、デジタルを活用したコミュニケーションの比率が高まる中で、より高速でPDCAサイクルを回せるようになったという環境的な変化がありました。
当社は2020年にPR活動としてコロナ禍での「上手な換気の方法」を発信し、「PRアワードグランプリ2020(主催:日本PR協会)」のグランプリを受賞しました。これは上手な換気の方法をWebコンテンツとして発信しながら、換気に対する意識調査や生活者向けWebセミナー、テレビやWeb広告を通じた啓発活動など、さまざまな施策を組み合わせたもので、高速でPDCAを回した結果だと思っています。
ダイキン工業
総務部 宣伝広告グループ長 部長
また、コロナ禍で在宅勤務の人が増え、交通広告を活用しなくなった企業も多かったと思いますが、その反面で交通広告の実勢価格は下がりました。乗客数は減少していますが、従来の大混雑とも言える状態から、多少は周りを見回せるくらいの適切な人数になったと考えることもできます。
コロナ禍で交通広告を活用するなら、そのような状況下で通勤や外出をしなければならないという人の気持ちになって、その人の心に刺さるコミュニケーションを行うことが大切です。我われであれば、単に「エアコンを買ってください」と言うのではなく、たとえば「きちんと換気をしながら、この状況を乗り切っていきましょう」と打ち出すことで、このような状況下でも不安をかかえて移動しなければならない方々に、同志のような感覚を持ってもらうことが期待できます。
このように、電車の乗客が減少したから交通広告は使えないと単純に判断するのではなく、メディア環境の変化に合わせて、その時々でどのメディアをどのように使うと効果的かを素早く判断して実行し、その結果からPDCAを回していくことがポイントだと考えています。
ブランドメッセージがコロナ禍にフィットした
――ダイキンは、コロナ禍以前から「空気で答えを出す会社」というパーパスのもとにブランドづくりを行っていたと思います。コロナ禍で生活者の「空気」への意識が高まりましたが、それによりダイキンは、どのようなポジションを得られたのでしょうか。片山 従来の生活の中で「空気」は「水」に比べても存在感が薄く、あまり気に掛けられることはありませんでしたが、コロナ禍になってはじめて部屋の中の空気が注目されるようになりました。空気は病気を媒介するというマイナスの認識もありますが、一方でもっと良いことにも役立つはずだというプラスの認識が広まっています。それによって、我われが長年訴えていてもなかなか響かなかった空気の可能性を伝えるメッセージが非常に届きやすくなっていると感じています。
コロナだからといって、企業戦略やパーパスを変えることはしませんでした。なぜなら空気で生活を快適に、人々が元気に過ごせることを目指す思想、「空気で答えを出す会社」であること変わりはないからです。
その中で我われは、以前から空気にこだわってきた会社として、世の中の空気の困りごとである「換気」の課題、お悩み、不安に「上手な換気の方法」を中心とした統合型コミュニケーションを超短期間に企画、制作、実行してきました。空気の課題に対して真摯に向き合う企業として、他社に遅れをとることなど許されませんよね。そのことによって、「ダイキンは空気に詳しい会社だ」というイメージがより生活者に持たれるようになったことは事実です。
同時に、当社の換気ができるエアコンが一躍脚光を浴びました。もともと換気ができるエアコンは日本では当社の最上位機種「うるさらX」だけでしたが、いままで換気を目的に購入するケースがあまりなかったのです。昨年の家庭用エアコンの国内販売台数でトップになったのは、コロナ下であってもしっかりと製品を供給できる力、現場の営業力も高かったことに加えて、高価な価格帯の製品ながら、よいエアコンの定義が「換気ができるエアコン」に置き換わり、政府の給付金などもあって「そろそろ古くなってきたし、健康のためにも良いエアコンを買おう」という考えになったことが要因と考えています。
パンデミックだから作った製品ではなく、設計思想の段階から、空気で快適な暮らしを実現することを突き詰めて作られた製品が、コロナ禍の生活にマッチしたのだと思います。さらに「換気機能のついたエアコン」だけでなく「空気で答えを出す会社」がつくった普通のエアコンでも、他社の製品よりもいいのではないかという捉えられ方をしていただいた部分もあるかもしれません。
――エアコンは12、13年に一度などの長期スパンで買い替えられるものですよね。その買い替えのタイミングできちんと想起されるブランドになることが大事だと思いますが、「空気に詳しい会社」というのは、その中でもひとつ突出した価値になっていますね。
片山 そうですね。ほとんどの日本メーカーの商品はどれも品質が良いので、極論を言えば何を買っても間違いではないんです。もちろん厳密にいえば本当はダイキンが一番いいのですが(笑)。値段もそこまで変わらない中で、決め手となることが増えているのは、やはりブランドの情緒的な価値です。買い替えまでの12、13年の間に、「エアコンを買うなら、やっぱりダイキンだね」という印象を蓄積し続けるということですね。