企業インタビュー #03

ダイキン片山氏に聞く、時代が変わっても揺るがないブランドパーパスを軸にした顧客との関係構築

 

会社の根となる価値に向き合い、それに基づいたコミュニケーションを

――ここ数年でブランドパーパスの重要性が語られるようになり、必要にかられて策定する企業も多いように感じます。ダイキンは以前から変わらないキーワードをブランドの軸としていますが、ブランドパーパスはどのようにあるべきだと思われますか。

片山 商品を生みだしたり、企業全体を動かすには、非常に大きなエネルギーといろいろな人の知恵が必要になります。ブランドパーパスは、その源となる部分と、変化する世の中でその時々に求められていることとの接点をつくるためのものだと考えています。源となる部分とは、そのブランドが根本的に届けようとしている価値のこと。つまりそれは新しくつくるものではなく、企業や商品がもともと持っているものを言語化したものであるべきと考えます。

――片山さんも、パーパスをもとに広告宣伝やマーケティングといった部門の壁を超えて仕事をされているかと思いますが、部門横断でマーケティング活動を成功に導くポイントはなんでしょうか。

片山 組織や部門はスピード感をもってひとつひとつの機能を進めるために必要です。しかし一方で消費者に届ける情報は部門横断で首尾一貫していなければ伝わらず、信用してもらえません。しかし現実的には、たとえばグローバルで4兆円近い売上を持つ当社の商品企画に口を出そうと思っても、私はそんな知恵はないですし、もちろん権限もありません。

ではどうするか。基本は、その会社がそもそも持っている価値に沿ったマーケティング活動やコミュニケーションを行うことです。その価値は会社の中心となる柱なので、ほかのプロダクトや営業活動も基本はその根から生えているはずで、消費者から見ても同じような見え方になる確率が高くなります。

マーケティングや広告部門は、自分たちが時代の先に会社を引っ張って行くようなつもりで、新しいこと、かっこいいことをやろうとする節があります。でも、よほどのカリスマでない限り、とりわけ大企業においては会社全体がそれに付いてくることは難しいでしょう。新しいことの開拓は、世の中にいるごく一部の優秀なマーケターにお任せし、それ以外のフツウのマーケターは会社の根っこにある価値を真剣に考え、社員の8割が納得しているポイントを見つけ出して、そこで根気強くコミュニケーションをしていくべきです。一見時間はかかりそうですが、それ以外のやり方で人は動かないと思っています。

――最近では、パーパスを軸に海外でのサブスクリプションモデルの展開も見かけるようになりました。「空気を変える」ことでダイキンが描く未来をお伺いできればと思います。

片山 テレビCMも放映していましたが、アフリカの東海岸に位置するタンザニアという国でエアコンのサブスクをスタートしました。

一年中、冷房が必要な暑さの国であるにも関わらず、設置されているエアコンは省エネ性能が低く電気代は高い。故障したまま放置されるケースが多かったのです。こうした状況に対して、我々は人々に快適な空気を届けるために、エアコンを使うことへのハードルがぐっと下がるサブスクモデルを導入し、エアコンを日常的に使えるような環境を実現しました。

もうひとつの価値として、環境負荷低減へも貢献しています。タンザニアなどの開発途上国で普及しているエアコンは省エネ性能が低いノンインバータ機が95%を占めていますが、サブスクで提供しているエアコンはダイキンの高性能なインバータ機で、消費電力を60%削減することができるのです。電気代の削減と環境負荷低減の両立は、我々のビジネスと社会貢献の両方を実現することができるため、結果としてSDGsにもつながる取り組みであると考えています。

今は、流行りだからという理由でSDGsをやらなければならないと考えている企業が多いように思いますが、それだけの理由であればむしろやらない方がいい。しっかりと腰を据えてやらなければ、結局は意味のない活動になってしまいますから。

一方で、一定以上の規模の企業は本来は絶対SDGsに取り組む必要があります。先ほどブランドの情緒的な価値が購入の決め手になると言ったように、SDGsに取り組んでいるかどうかも、商品を選ぶひとつの要素になるからです。

我々は、コミュニケーションのネタとしてSDGsに取り組むのではありません。あくまでも会社がこだわっている価値を主体とし、それを時代に合わせて提供していくことの一環として、しっかりと打ち出していったのがタンザニアでのサブスクモデルの実現です。これを皮切りに、ダイキンは「空気」にまつわるさらなる社会課題解決を進めていきたいと考えています。
 
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